脳血管障害後遺症者の障害受容
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
【目的】脳血管障害後遺症者の障害受容の方法論を導出するため,障害受容との関連項目の検討を目的に調査を実施した.<BR>【方法】Y県の施設で通所サービスを利用する非認知症の脳血管障害後遺症者で本研究に同意の得られた48名(男性33名,女性15名),平均年齢75.2±7.5(59–95)歳を対象とした.調査内容は,個人特性(性別,家族構成,教育歴,職歴,信仰宗教の有無,趣味の有無)および身体的情報(調査時年齢,発症時年齢,発症後経過年数,脳血管障害の種類,麻痺側,合併症の有無,介護度,Barthel Index,歩行実施の有無)と質問紙調査である.質問紙は,MOS 36-Item Short-Form Health Survey Ver.2(SF-36v2),The Nottingham Adjustment Scale Japanese Version(NAS-J),生活満足度K(LSIK),老研式活動能力指標で構成した.NAS-Jの質問項目の「視覚障害」,「視覚障害者」は「身体障害」,「身体障害者」に変換して使用した.統計学的解析は関連性の検討にピアソンの積率相関係数の検定またはスピアマンの順位相関係数の検定を用いた.<BR>【結果】「障害の受容」は,NAS-Jの「不安・うつ」(r=0.505,P<0.001),「自尊感情」(r=0.527,P<0.001)と「自己効力感」(r=0.335,P=0.02),SF-36v2の「活力」(r=0.408,P=0.004)と「心の健康」(r=0.466,P=0.001),LSIKの「人生全体についての満足感」(r=0.559,P<0.001),「心理的安定」(r=0.311,P=0.031)とLSIK全体(r=0.569,P<0.001),老研式活動能力指標の「社会的役割」(r=0.318,P=0.028)との間に有意な相関関係が認められた.個人特性および身体的情報においては,いずれの項目も「障害の受容」との間に有意な相関関係を示さなかった.<BR>【考察】本研究結果より,これまでほとんど実証を伴うことなく論じられてきた脳血管障害後遺症者の障害受容に関して,心理的充足と社会的交流との関連性が明らかになった.脳血管障害後遺症者の障害受容は,個人特性や身体的情報には関連性を示さず,複数の心理的要素に関連性を有しており,障害に関する身体的条件や時間的要素に関わらず,心理的な充足を図ることが障害受容を促進する可能性が考えられた.また障害受容は,最も高度で複雑な活動とされる「社会的役割」とも関連性を有しており,基本的な日常生活行為能力とは異質の,より社会的要素の強い活動能力を高めること,つまり社会的交流の充実を図ることが障害受容を促進する可能性が考えられた.以上より,脳血管障害後遺症者の障害受容には,個人の基本条件に関わらず,心理的配慮,さらには社会との関わりを視野に入れたアプローチの重要性が示唆された.
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
- 療養型病院における廃用症候群の予後予測
- 髄腔内バクロフェン治療(ITB)後の理学療法:―歩行可能な症例に対する評価とアプローチ―
- 理学療法士の職域拡大としてのマネジメントについて:―美容・健康業界参入への可能性―
- 脳血管障害患者の歩行速度と麻痺側立脚後期の関連性:短下肢装具足継手の有無に着目して
- 健常者と脳血管障害片麻痺者の共同運動の特徴:―異なる姿勢におけるprimary torqueとsecondary torqueの検討―