ビデオ映像を手がかりとしたメンタルプラクティスが片麻痺患者における非麻痺側上肢リーチ距離と課題遂行能力に及ぼす影響
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概要
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【はじめに】<BR> 近年、脳卒中リハビリテーションへのメンタルプラクティス(MP)の応用が注目されている。MPは「筋活動を伴わない身体活動の象徴的リハーサル」と定義されているが、その手法は様々である。また、運動イメージの形成には視覚的要素の重要性が述べられているが、これを利用したMP単独の効果は明らかにされていない。そこで今回我々は、上肢リーチ・把握動作のビデオ映像を手がかりとしたMPが、脳卒中片麻痺患者の非麻痺側上肢リーチ距離と課題遂行能力に及ぼす影響について調査した。<BR>【対象】<BR> 研究目的が理解でき、参加に同意の得られた脳卒中片麻痺患者40例を対象とした(男性28例、女性12例、平均年齢70.3±9.3歳、平均罹患期間22.1±31.9ヶ月)。移動動作能力は車椅子使用が24例、歩行自立が16例であった。<BR>【方法】<BR> 被験者をMP群20例とコントロール群20例に割り当てた。課題動作は「座位でテーブル端より接近してくる水の入ったコップを非麻痺側上肢により、できるだけ遠くで取る事」とした。MP群には課題動作を三人称的視点と一人称的視点で撮影した10分間の映像を見せ、コントロール群は同時間の休息を与えた。評価は介入前後の座位Functional Reach(S-FR)測定値の変化、課題動作を視覚的に遂行可能と判定した最大距離(最大イメージ距離)の変化とした。また介入前後における課題遂行イメージと実際の課題遂行能力との整合性を判定し、自己能力の過大評価により実際には手が届かなかった場合は誤差距離も測定した。統計解析は対応のないt検定および二元配置の分散分析(反復測定)を用い、介入前後のS-FR測定値、最大イメージ距離、誤差距離の変化を解析した。また介入前後におけるイメージと実際の能力との整合数の変化も調査した。<BR>【結果】<BR> 介入前においてS-FR測定値、最大イメージ距離および誤差距離は2群間で差が無かった。介入法(MP、コントロール治療)×時間(介入前後)におけるS-FR測定値の変化には交互作用が認められた(F=7.69,p<0.05)。最大イメージ距離および誤差距離の変化には差が無かった。介入前の課題遂行イメージと実際の能力との差はMP群では9例(45%)に認められ、コントロール群では8例(40%)であった。自己能力の過大評価を生じた症例の内、MP群は全例、介入後に能力の整合または誤差の減少がみられたがコントロール群では2例のみであった。<BR>【考察】<BR> ビデオ映像を利用したMPは適応となる脳卒中片麻痺患者の運動イメージ形成に有用であり、身体パフォーマンスの改善と、イメージされた能力と実際の能力との差を減少させる可能性があると考えられた。自己能力の過大評価は動作ミスや転倒の危険因子にもなることから、本法は簡便かつADL能力の向上にも繋がる可能性を持つものと考えられる。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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