視覚情報処理機構における腹側ストリームは筋収縮の調節に関与しない
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概要
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【目的】特定の視覚パターンの認知は、一次視覚野から側頭葉に至る一連の領域に関わる。この一連の領域は腹側ストリームと呼ばれている。一方、視覚環境の何処に対象が存在するかについての情報は、一次視覚野から頭頂葉に上行する。この一連の領域は背側ストリームと呼ばれている。昨年の本学会で筆者らは後者の背側ストリームが上肢の運動制御に関与することを明らかにした。今回は、腹側ストリームが上肢の運動制御である上腕二頭筋の収縮調節に関与するかを明らかにする。<BR>【方法】形は異なるが同じ重さの二つの物体を用意した。一つは球体、もう一つは立方体である。被験者は同意の得られた健常女性10名とし、球体の持ち上げ後、立方体の持ち上げを行った。二つの物体の総重量は被験者の体重の約5%とした。二つの物体の容積はほぼ同じにした。手順は物体の交互持ち上げを1試行とし5試行で構成した。被験者は立位で取手を前腕回外位で握り、肘関節屈曲90度位まで容器を持ち上げた。なお、持ち上げるための取手は、体幹の前屈が入らない高さに取り付けた。1試行後、持ち上げ前の重さの予想、後の重さの違いについて内省を聴取した。筋放電導出にはMyosystem1200(Noraxon)を用い、上腕二頭筋腹に表面電極を貼付した。物体底にNorswitch(EM-134)を取り付け、スイッチオフになった最初1秒間の積分値を求め、最大等尺性収縮時を100%とし正規化した(%IEMG)。統計処理には対応のあるt-検定を用い、二つの物体の持ち上げ時の%IEMGを比較した。有意水準は5%未満とした。<BR>【結果】1から5試行において、球体持ち上げ時と立方体持ち上げ時の%IEMGに有意差を認めなかった。被験者の内省では、球体が重いと判断した者が5名、立方体2名、同じ3名であった。持ち上げ前の予測では、球体が重いと予想した者が6名、立方体3名、同じ1名であった。いずれも一様でなく、過去の意識経験や心的イメージに修飾されていた。<BR>【考察】物体の大きさ知覚が持ち上げ運動における上肢筋活動に影響し、背側ストリームが筋収縮を調節することが昨年明らかになった。一方、色の知覚は筋活動に影響せず、腹側ストリームは筋収縮の調節には関与しないかと推察されたが、腹側ストリームの最終の機能である形態認知が運動制御に影響していないかは、形の違いが上肢の摘み運動の制御に影響する(Jenmalm,1997)ことから疑問が残った。しかし、Jenmalmらの研究では物体に手を接触させていることから、その大きさに左右される可能性がある。今回は取手の接触であり、物体には接触させていない。よって、本結果から腹側ストリームは上肢の筋収縮調節に関与しないことが明らかになった。形態認知は大きさ知覚と違い、物理的なものでなく対象者の概念や心的イメージに左右される可能性がある。一連の成果から、上肢の運動制御の障害は側頭葉損傷よりも頭頂葉損傷に起こる可能性が推察された。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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