腹臥位が身体に及ぼす影響について
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概要
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【目的】腹臥位療法(変法)は、廃用症候群に対して有効なリハビリテーションとして報告されているが、その生理学的機序についての研究・報告は少ない。本研究の目的は、腹臥位による身体への影響について背臥位と比較することである。<BR><BR>【方法】疾患を有しない健常者11名(男性4名、女性7名、平均年齢20.3±0.7歳)を対象とした。対象者には本研究の目的および方法を十分説明し、研究参加の同意を得た。室温24~26°C、湿度50~60%、無風状態とし、被験者は馴化後、背臥位(1)、腹臥位(2)、背臥位(3)の順序で各8分間ずつ合計24分間行った。測定項目は、脳血流量、体表面温度、血圧、脈拍、動脈血酸素飽和度とし、各肢位の開始直前と終了直後に測定した。脳血流量は浜松ホトニクス社製赤外線酸素モニタ装置NIRO―200を、体表面温度はNEC三栄社製赤外線熱画像装置サーモトレーサTH7102MVを、血圧・脈拍はオムロン社製デジタル自動血圧計HEM-637ITを、動脈血酸素飽和度はフクダ電子社製パルスオキシメータ512を使用した。統計処理は、一元配置分散分析法により3つの肢位において検定した後、多重比較検定を行った。有意水準は5%とした。<BR><BR>【結果】脳血流量は左前頭部O<SUB>2</SUB>Hbが(1)で-0.45±1.51μmol/L、(2)で3.65±2.21μmol/L、(3)で-2.10±2.98μmol/L、右前頭部O<SUB>2</SUB>Hbが(1)で-0.63±1.38μmol/L、(2)で-0.22±1.89μmol/L、(3)で-2.13±2.54μmol/Lとなり、左前頭部O<SUB>2</SUB>Hbで(2)が(1)及び(3)に比較し有意に増加した。また、左前頭部HHbも(1)で-1.35±1.73μmol/L、(2)で0.26±1.69μmol/L、(3)で-1.85±1.93μmol/L、右前頭部HHbが(1)で-0.85±1.16μmol/L、(2)で-0.90±1.90μmol/L、(3)で-1.26±1.47μmol/Lとなり、左前頭部HHbで(2)が(1)及び(3)に比較し有意に増加した。体表面温度は、左上腕部が(1)で33.4±0.6°C、(2)で34.0±0.7°C、(3)で33.1±0.4°C、右上腕部が(1)で33.9±0.9°C、(2)で34.0±1.0°C、(3)で33.4±0.7°Cとなり、左上腕部で(2)が(1)及び(3)に比較し有意に高くった。その他の測定項目では有意差はみられなかった。<BR><BR>【考察】脳血流量の指標となるO<SUB>2</SUB>HbとHHbは、背臥位に比較して腹臥位で有意に増加した。これらの要因としては、大脳体性感覚野において顔面および手部が特異的に広範囲を占めており、腹臥位において接地した顔面および手掌面からの触覚刺激や圧刺激が多くの脳細胞を刺激し、上行性網様態賦活系の働きにより前頭部の脳血流量が増加したことが考えられる。体表面温度については、腹臥位での上肢が、頚部の左回旋肢位により右上腕部よりも相対的に左上腕部の接触面積や圧刺激が減少することにより、上腕部筋群の緊張が低下し血流量が増加したことで体表面温度が上昇したのではないかと考えられる。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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