介護予防システムの構築
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概要
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【目的】<BR> 介護保険施行から3年が経過し、要介護者の急増が課題となった。中でも要支援、要介護1の増加が著しく平成12年4月と平成15年4月を比較すると、1.9倍の増加となっている。認定者の増加は、介護保険が国民に定着したことを示すものであり、必ずしも悪いものではないが、全国の8割の自治体が介護保険料を増額せざるを得ない状況は問題である。こうした要介護者の急激な増加を適正にとどめるには、介護サービスだけでなく、介護に陥らないための介護予防サービスを充実させる必要がある。この報告では、理学療法士による介護予防への取り組みを報告する。<BR>【介護予防の目標】<BR> 生活習慣病予防は死因を目的変数とした場合の予防であり、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患が目標となる。しかし、介護予防の目標となる要介護状態を目的変数とする場合、生活習慣病の関与は少なくなり、代わって高齢による衰弱、転倒骨折、痴呆、関節疾患などの原因となる。これらは、老年症候群と呼ばれ、このほかにも尿失禁、誤嚥、低栄養などがある。従って、介護予防の目標は老年症候群の予防に特徴があるということができる。<BR>【老年症候群の早期発見・早期対処システムの構築】<BR> 介護予防も生活習慣病と同様に早期発見・早期対処が基本となる。我々は、18項目の質問と3項目の体力測定から、身体虚弱、転倒、低栄養、尿失禁、軽度痴呆の危険度を判定する介護予防健診(おたっしゃ21)を開発した。介護予防を業務としている在宅介護支援センターのみならず、保健所、病院など保健・福祉・医療の関連領域への普及をはかっている。また、同時に民生委員などにも同様の情報を提供することによって閉じこもりがちな高齢者に対して介護予防の情報が届くように工夫している。こうして検出された、要注意者に対しては、転倒予防教室など、それぞれのリスクに適合した、介護予防プログラムを紹介する。<BR>【介護予防の評価】<BR> 介護予防では、介護費用の削減という経済的要望も満たさなければならない。予防は介入と効果の間に時間的な隔たりがあり、それを埋めるための系統的かつ客観的な評価が必要となる。我々は、各介護予防プログラムに標準的な評価指標を設定し、第3者にもわかる形で介護予防事業の効果を示す支援をしている。これらを総合した、介護予防事業に対する総合的な政策評価は今後の課題となっている。<BR>【現状】<BR> 本年度は7区市町村で包括的な介護予防サービスの事業化支援を行っている。<BR>【おわりに】<BR> 高齢者人口の急増に伴って、これまで理学療法の対象となってきた障害を持つ者に対するサービスの見直しがなされている。障害受容に効率を求めることはその障害の構造を考えると矛盾する。効率的な介護予防によって要介護者を少なくし、これまでの障害受容の過程を守る必要がある。これこそ、理学療法士の役割といえる。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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