股関節・膝関節他動運動がヒラメ筋H反射に与える影響:脳卒中片麻痺患者の運動療法における基礎的検討
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概要
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【目的】<BR> 近年の報告では,股関節と膝関節の他動的運動がヒラメ筋の単シナプス反射を抑制する.ヒラメ筋の筋緊張を抑制するため,脳卒中片麻痺患者の尖足における運動療法など、さまざまな治療に応用できる可能性がある.しかし,今までの報告は健常者に対して行ったものであり,脳卒中患者での効果は不明である.今回われわれは,健常者群と脳卒中片麻痺患者群で股関節・膝関節の他動運動がヒラメ筋に与える影響を検討した.<BR>【方法】<BR> 健常成人8名,脳卒中片麻痺患者5名を対象とした.脳卒中片麻痺患者群は下肢の筋緊張が亢進している者とした.全被験者に対して実験前に主治医とともにインフォームドコンセントを行った.運動には慶應義塾大学月が瀬リハビリテーションセンターが開発した他動運動装置(TEM,安川電機社製)を使用した.股関節と膝関節の同時屈曲伸展運動は0度から120度の範囲で他動的に行った.運動速度は4度/秒,8度/秒とした.運動中,脛骨神経に対して4秒から5秒毎に電気刺激を行い,ヒラメ筋の誘発筋電図を測定した.統計には全例のH/Mmaxを用いた.<BR>【結果】<BR> 健常者では,股関節・膝関節同時屈曲運動に伴い直線的にヒラメ筋のH/Mmaxが減少し,屈曲相において,多くの角度では高速度運動で有意に低い値となった.伸展相では伸展直後にH/Mmaxは増加し安静時に近づいた.伸展相では速度による差は認められなかった.<BR> 脳卒中片麻痺患者群では屈曲相中期に減少し,伸展相中期までその減少は続いた.また,運動全域において速度による差は認められなかった.<BR>【考察】<BR>健常者群において,股関節・膝関節同時屈曲がヒラメ筋のH/Mmaxを減少させたが,高速度運動によって減少が増したことから大腿四頭筋と大殿筋の伸張によるものと考えられる.伸展相ではヒラメ筋のH/Mmaxが増加したが,これは大腿四頭筋と大殿筋からの影響が消失したためと考えられる.<BR> 脳卒中片麻痺患者では健常者とは異なる変化を示した.変化が速度に依存しないことから,筋の伸張による影響は少ないものと考えられる.過去の健常者の報告において関節角度による影響は少ないが,脳卒中片麻痺患者ではその影響が高まっていることが示唆された.<BR> 今回の実験から脳卒中片麻痺患者において股関節・膝関節の他動的屈伸運動が足関節底屈筋の単シナプス反射経路を抑制することが示唆された.この神経生理学的な影響は,脳卒中片麻痺患者に対するさまざまな運動療法を行ううえでのEBMになると考える.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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