視覚系Open feedbackが筋疲労と重心動揺に与える影響について
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概要
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【目的】運動発現機構に制御系feedbackが関係することが既知となっており、Kawato(1990)らをはじめfeedbackによる運動制御モデルが構築されている。現在、感覚入力と重心動揺や筋力といったそれぞれの関係の研究が報告されているが、感覚入力によるfeedbackが筋疲労や重心動揺に及ぼす影響についての論文は少ない。我々は、視覚系Open feedbackと体性感覚入力の遮断の有無が空気椅子肢位の姿勢にどのような変化を起こすか検討し、視覚系feedbackが姿勢保持に及ぼす影響について若干の知見が得られたので報告する。<BR>【方法】対象は下肢に障害のない健常男性7名(平均23.5歳)で、実験方法を説明し同意を得た者とした。実験は、股関節と膝関節を50°と100°屈曲、体幹を鉛直方向にそれぞれ保持し、空気椅子姿勢が崩れる迄とした。課題は視覚系feedbackの影響を除くため閉眼させ、下肢感覚入力遮断の有無とcontrolの3試行した。尚、感覚入力遮断方法は、膝窩中央より10cm上に大腿用血圧計250mmHgで圧迫するものとした。筋疲労の測定は、De Luca(1997)らによる表面筋電図法で両側の内・外側広筋の運動点を挟み、電極間距離2cmでcrosstalkがないものとした。重心動揺の測定は、kistlerの床反力計を左右の足底に合わせ、体重心軌跡を計測した。体幹および股・膝関節の角度変化と重心の鉛直方向の変動はVICON370で測定した。尚、反射マーカの貼付位置は、両側肩、股、膝、外果、第5中足骨頭の臨床歩行分析研究会の測定方法に準じ、サンプリング周波数60Hzとした。統計は、筋電図の平均周波数、鉛直方向の体重心軌跡、体幹と股・膝関節の角度変化をANOVAで処理し、有意水準5%の危険率で差の検定を行った。<BR>【結果】閉眼で大腿部の圧迫有無による空気椅子姿勢が崩れるまでの時間において圧迫有がcontrolと圧迫無に比べて有意に短かった。周波数分析では圧迫有の平均周波数が低く、同様の有意差がみられた。体重心の前方移動距離では、閉眼がcontrolに比べて有意に長かった。鉛直方向の体重心軌跡でも、閉眼がcontrolに比べて運動開始の早期より下降の傾向と動揺がみられ、増大する傾向にあった。変動は閉眼の圧迫有が最も大きく、2から5Hzの低周波で揺れる傾向がみられた。また、体幹と股・膝関節の角度変化は体重心の鉛直動揺と同じく増大する傾向がみられた。<BR>【考察】視覚系Open feedbackと大腿部の感覚入力の定量的遮断で姿勢保持が困難となることから、姿勢維持筋が過剰な筋張力を発揮するために筋疲労を起こすと考えられる。また、鉛直方向の重心変動は視覚系feedbackの遮断でも起き、姿勢維持の鉛直方向の制御に有用な役割があると考えられた。特に高齢者の転倒を考えた場合、視覚系入力も含めた感覚入力障害が鉛直方向の重心動揺に影響することも考慮する必要があると推察される。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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