リフティング動作時における体幹筋の筋活動について:持ち上げ重量が分からない場合
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概要
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【はじめに】リフティング動作を行う際に注意することとして,持ち上げ方と持ち上げる物の重さがある.今回我々は持ち上げる物の重さに着目し,重さが分からない場合に体幹筋の筋活動にどのような変化が現れるのかを多裂筋と脊柱起立筋の筋電図積分値(以下IEMG)を測定し,検討したので報告する.<BR>【対象】過去1年以上腰痛の既往がない健常成人10名(男性5名,女性5名)で平均年齢22.4±3.6歳であった.<BR>【方法】被験者は測定に先立ち背筋力計を用い最大等尺性随意収縮(以下MIVC)時の筋力を測定し,35%・10%MIVC値を算出した.その後,重量が分からないように段ボール箱に詰め1秒間で持ち上げ,2秒間保持し,1秒間で元の場所へ下ろすことを1回としたリフティング動作を体幹屈曲45度から0度の範囲で連続して行った.初めに35%重量で行い休憩後10%重量で行った.なお被験者には下肢の筋力は使わないよう指示し,重量についての情報は一切提示しなかった.<BR> 被験筋は多裂筋と脊柱起立筋とし,表面電極からの筋活動電位をホルター筋電計ME3000(Mega社製)に記録した.解析ソフトMega Win(日本メディックス社製)を用いて35%重量と10%重量のリフティング動作の動作前と動作中の1回目,2回目,3回目のIEMGを算出し,MIVC時のIEMGで正規化した%IEMGを用いて比較検討した.<BR>【結果】動作前の比較では,多裂筋が35%重量で40.4±14.2%,10%重量で52.3±12.8%,脊柱起立筋が35%重量で33.5±9.3%,10%重量で46.1±15.0%で両筋ともに10%重量において有意に高かった(p<0.01).動作中の比較では35%重量においては1回目と2回目,2回目と3回目ともに両筋において有意差は認めなかった.10%重量においては1回目と2回目で両筋ともに2回目の方が有意に高かった(p<0.05)が,2回目と3回目では両筋ともに有意差は認めなかった.動作前に対する1回目の増加率は,35%重量では多裂筋が2.3倍,脊柱起立筋が2.6倍,10%重量では多裂筋が1.1倍,脊柱起立筋が0.9倍であった.<BR>【考察】動作前の比較で両筋ともに10%重量が35%重量よりも高い筋活動量を示したのは,最初に35%重量という重い物を持ち上げたことにより10%重量時の動作前に持ち上げる重量を予測した結果,「構え」という現象が起きたことが示唆された.<BR> 「構え」がある場合は筋活動量の急激な増減を防ぐことができるが,「構え」がない場合は急激に筋活動量を増加させる必要があり,筋への負担も大きくなるのではないかと考えられ腰痛の発生因子となる可能性があることが示唆された.リフティング動作時には重量の確認と「構え」が大切だと思われ,今後さらに症例数を増やしたうえで検討を重ねていきたい.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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