肩関節外転角度変化が上肢CKC動作時の筋活動に及ぼす影響
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概要
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【はじめに】閉鎖運動連鎖(closed kinetic chain:CKC)に関する報告は、上肢を対象とした研究は少ない。本研究の目的は、上肢CKC動作における肩関節外転角度変化が上肢筋活動に及ぼす影響について筋電図(EMG)を用いて明らかにすることである。<BR>【方法】対象は健常男性成人7名、平均年齢22.4(20~24)歳、身長172.0±4.1cm、体重65.1±3.0kgであった。本研究は東京都立保健科学大学倫理委員会の承認を得て被験者に対し書面で実験への同意を得た。運動課題は、等速性筋力測定機(バイオデックス)に取付けたCKCアタッチメントを把持して体側に沿って下方へ押す等速性多関節運動を行わせた。運動範囲は肘関節90度屈曲位から0度までとし、肢位は背臥位にて肩関節外転0度と15度の2種類とした。多関節運動ピークトルク(PT)の測定は、角速度を60deg/sec、180deg/sec、300deg/secとし最大随意収縮(MVC)にて行った。測定は2種類の肩関節外転角度および3種類の角速度についてランダムに実施し、PT値を体重で除した値(体重比)に変換した。EMGは被験筋を大胸筋、上腕三頭筋、前鋸筋、広背筋とし、表面電極を使用し、電極配置は国際電気生理運動学会が推奨する位置とし、電極間距離は2cmとした。解析は各試行のPT直前から500msを対象区間とし、サンプリング周波数1KHz、band pass filter 10-350Hzでコンピュータに取り込み実効値(root mean square value:RMS値)を算出した。RMS値はMMT肢位(第6版)での各筋MVC測定時のRMS値を基に正規化した。統計処理は二元配置分散分析を使用し事後検定はFisherのPLSDを行い有意水準5%とした。<BR>【結果】PTの体重比による比較では肩外転0度の時、60、180、300deg/secの順で8.7±1.3、6.9±1.2、5.8±1.0Nm/kgとなり、角速度間で有意差を認めた。肩外転15度では60、180、300deg/secの順で8.2±1.1、6.8±0.8、6.0±0.9Nm/kgとなり、角速度間で有意差を認めた。しかし、PTの体重比は各角速度における肩外転角度間の差は無かった。RMS値は全ての筋において60、180、300deg/secの順で高値を示し有意差を認めた。肩外転角度の違いによる、RMS値の比較では上腕三頭筋が0度よりも15度の方が有意に低値を示し、その他の筋では15度で有意に高値を示した。<BR>【考察】本研究結果からCKCにおける上肢動作では肩関節外転角度変化でPTの体重比の有意差は無いにもかかわらず、外転角度が増加すると上腕三頭筋の筋活動が減少し、大胸筋・前鋸筋・広背筋の筋活動は増加を示した。このことは、上腕三頭筋の筋活動低下をその他の筋が活動量を増加させることで全体的な筋力を維持していると考えられ、佐々木らが上肢CKC筋力は肘伸展筋力だけでは説明できず、肩関節周囲筋などの協調的・複合的動員が起こるとする報告を筋活動の側面から裏付けるものであった。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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