感覚入力が筋疲労や重心動揺に及ぼす影響について
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概要
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【はじめに】運動発現には制御系フィードバックが深く関与していることは周知の事実であり、Kawajin(1989)らをはじめフィードバックを中心に運動制御モデルが構築されている。現在、重心動揺と筋力や感覚入力などの関係が報告されているが、感覚入力に関する筋疲労や重心動揺との関連を研究した論文は数少ない。我々は、体性感覚入力遮断の有無が空気椅子肢位の姿勢にどのような変化を起こすのか計測を目的とし、筋電図周波数解析、床反力計による体重心軌跡、および3次元動作解析による関節角度の変化を指標に若干の知見が得られたので報告する。【方法】対象は下肢に障害のない健常男性7名(平均22.9歳)とし、実験方法を十分に説明して同意を得ている。実験は、股と膝関節を50°と100°屈曲、体幹を鉛直方向に保持させ、空気椅子姿勢が崩れるまで維持するものとした。感覚入力遮断有無の2試行とした。入力遮断の方法は、膝窩中央10cm上に大腿用血圧計250mmHgで圧迫した。尚、数値はヒラメ筋H反射で振幅が最小になることを確認したものである。 筋疲労の測定は、De Luca(1997)が提唱する表面筋電図法に準拠した。両側の内・外側広筋の運動点を抽挟み、電極間距離2cmでcrosstalkがないものとした。筋電図の解析はBIMTAS II でデータを処理し、周波数分析を行った。重心動揺の測定は、kistlerの床反力計2枚を左右の足底に合わせ、体重心軌跡長を計算した。体幹および股・膝関節の角度変化と重心の鉛直方向変動はVICONで測定した。反射マーカーの位置は両側の肩、股、膝、足、第5中足趾間の各関節とし、臨床歩行分析研究会の測定方法に準じた。尚、重心軌跡と関節角度変化については、サンプリング周波数60Hzとした。統計処理は、筋疲労による平均周波数、重心動揺の軌跡長、体重心の前方移動距離、体幹と股・膝関節の角度変化を有意水準5%の危険率の差の検定で行った。【結果】大腿部の圧迫有無による空気椅子姿勢が崩れるまでの時間に有意な傾向がみられ、圧迫有は短かった。表面筋電図による周波数分析では圧迫有の平均周波数が低く、同様に有意な傾向がみられた。床反力計による重心動揺の軌跡では圧迫有の軌跡が長い傾向がみられた。さらに、体重心の前方移動距離は圧迫無よりも長い傾向がみられた。体幹と股・膝関節の角度変化について実験開始時を基準に比較すると、体幹と股・膝関節の角度で圧迫有が増大する傾向にあった。また、鉛直方向への重心変化を比較すると、圧迫有が早期より下降の傾向がみられ、崩れる間際まで大きな動揺がみられた。【考察】感覚入力を大腿部で遮断するとことで、姿勢の維持が困難となり、姿勢維持筋が常に張力を発揮した状態になるために、容易に疲労するものと考えられる。また、鉛直方向の重心変動は、感覚障害がある場合に大きくなる可能性があり、転倒などを考える上で重要な要素になるものと推察された。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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