前十字靭帯新鮮損傷に対する高気圧酸素治療併用の試み
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概要
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【はじめに】当院では前十字靭帯(以下ACL)新鮮損傷に対して、Kyuro膝装具を用いた保護的早期運動療法を行っている。しかし、連続するACLの滑膜が乏しいものや皆無の例に対しては、靭帯の修復が思わしくないという問題点もあり、靭帯治癒の成績を上げるために、さらに工夫すべき点も少なからずあると考えられる。一方、高気圧酸素治療(以下HBO)の効果として、高圧下にて純酸素吸入を行うことにより、血中酸素分圧を高め血管新生を促進することや、線維芽細胞の増殖を促進させる効果が確認されている。そのため、血行が遮断され血液による栄養供給に乏しい損傷靭帯に、高密度の酸素を送り込めば、修復機転が促されることが期待される。そこで今回、受傷2週以内のACL新鮮損傷患者の治療にHBOを併用することで、損傷靭帯の治癒率が向上するかどうかを検討した。【対象・方法】2000年10月から2001年10月までに当院を受診したものをHBO群とし、それ以前に受診した症例を非HBO群とした。<HBO群>11例(男性3例、女性8例)、平均年齢36.1才、受傷から受診までの平均期間4日<非HBO群>42例(男性22例、女性20例)、平均年齢27.7才、受傷から受診までの平均期間3.3日ACL損傷の診断直後よりKyuro膝装具を装着し保護的早期運動療法を行った。受診時及び受傷3ヵ月後に関節鏡評価、KT-1000による弛緩性評価を行った。HBO群においては診断直後より、2絶対気圧下にて約60分純酸素吸入を行い、1日1回合計20回に渡りHBOを行った。【結果・考察】受傷3ヵ月後のKT-1000での弛緩性評価においては、非HBO群6.7±2.3mmから1.7±2.3mmへと改善されており(p<0.0001)、HBO群においても7.0±3.7mmから-0.1±2.2mmへと改善されていた(p<0.0001)。非HBO群に比べHBO群で良い改善傾向にあったが、2群間の改善率において有意差はなかった。関節鏡視評価における靭帯治癒基準は、A:緊張良好で太さがほぼ正常のもの、B:緊張良好であるが太さが2/3程度のもの、C:太さが1/2程度まで減少したもの、D:太さが1/2以下及び消失したものとし評価した。その結果HBO群においてはA:6例、B:3例、C:2例、D:0例であり、非HBO群においてはA:21例、B:6例、C:10例、D:5例であり、2群間において有意差はなかった。今回、我々が行った臨床研究では、HBO群において治癒率の向上する結果が得られたものの、統計的有意差は得られなかった。これはHBO群の症例数が少なかったことや、弛緩性評価、関節鏡評価のみではHBOの効果判定が難しい可能性があったこと、HBO併用期間が短かったことなどが考えられる。今後は長期にわたり追跡調査を行い、受傷時の断裂状態や、治療開始までの期間、筋力評価などについても検討していかなければならないと考えている。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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