足底感覚の臨床的検査法の検討:姿勢制御との関係から
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概要
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【はじめに】Lordらは高齢者の転倒の原因に、下肢筋力やバランス能力の低下だけでなく、体性感覚機能の低下を挙げている。姿勢制御には、視覚、体性感覚、前庭迷路覚等からの情報入力が不可欠であり、加齢に伴い体性感覚への依存度が増加するといわれている。また、高齢者の転倒の半数以上がつまづき、滑りを原因とすることから、姿勢制御には、地面という環境との唯一の接地面である足底からの感覚入力がとりわけ重要であると考えられる。これまでにも、足底からの圧情報が姿勢制御に大きく影響を与えるといった報告は多々見受けられるが、その多くは外部からの刺激により圧情報を変化させることでの影響をみたものであるため、臨床評価、治療へ直接応用することは困難なことが多い。本研究では不安定板と硬さの異なるクッションを用い、足関節の底背屈、足部の内外がえしにより足底からの圧情報を能動的に探索する能力を検査し、姿勢制御との関係を検討したので報告する。【対象と方法】対象は健常高齢者14名(男6名、女8名、平均年齢65.7歳)であった。足部の感覚検査は単軸不安定板2種類と硬さの異なるクッション5種類を用い、全て閉眼、裸足にて右足関節の底背屈と足部の内外がえしに対し行われた。被験者は股関節、膝関節90°屈曲位、足関節中間位となる端座位をとり、右足底を不安定板の上にのせた状態で、不安定板の両端に置かれたクッションのどちらが硬いかを自動運動により回答した。十分な説明の後20試技行い、正解数を得点とした。重心動揺測定にはアニマ社製ツイングラビコーダーG-6100を用い、測定周期20msec、測定時間20secとした。測定肢位は両上肢を胸の前で交差し、両踵間が8cm、開脚60°となる立位とした。【結果】スピアマンの順位相関係数検定において、内外がえしの感覚検査の得点と重心動揺距離左右成分の間に有意な負の相関が見られた。(p<0.01)【考察】Neisserは、知覚者が情報を有効なものにするためには、積極的に環境情報を探索する必要があり、探索によって抽出された情報は元のスキーマを修正するという、知覚循環理論を唱えた。また、立位における足底は、地面からの圧情報の変化を絶えず知覚しており、それは姿勢制御に重要な役割を担っている。そこで本研究では、足底からの圧情報を足関節や足部の動きにより探索する能力を検査し、立位重心動揺との関係を検討したところ、足部の内外がえしと重心動揺の左右成分との間に有意な相関が見られた。このことから、足底からの圧情報を探索する能力が高ければ、立位重心動揺は減少する傾向が示され、今回提示した臨床的検査法の有用性が示唆された。今後、下肢整形外科系疾患など、姿勢制御機能が低下しているとされる患者を対象に検討を重ね、臨床評価、治療に応用していきたい。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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