神経線維腫2型に対しての長期的理学療法:能力維持と社会参加への援助を通じて
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概要
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【はじめに】神経線維腫症2型(neurofibromatosis2以下NF2)は,両側の聴神経鞘腫を発症し,シュワン細胞,くも膜細胞,グリア細胞に,腫瘍性または異型性の病変を示す疾患である。経過は,多発する腫瘍の増殖速度が変化し一定しない。そのため臨床症状に関する報告は見られるが,運動能力の経過について述べている報告は少ない。今回,能力維持及び社会参加への援助を目的に理学療法を施行したので報告する。【症例】21歳,男性。コンピュータ関係の専門学校生(休学中)。1995年5月耳鳴り出現。同年8月近医受診しMRI・遺伝子検査にてNF2と診断。同年10月同病院にて頚髄腫瘍摘出。以降当院脳神経外科にて聴神経鞘腫,頚髄,腰髄,末梢神経腫瘍に対して放射線治療,外科的切除術を行った。【理学療法経過】2001年6月左膝窩部周囲の神経鞘腫摘出目的にて入院。両下肢感覚障害,両下肢麻痺,車椅子ADLであった。手術前後において坐位保持能力の向上を目標とし,起立台での立位,坐位保持トレーニング,両上下肢筋力トレーニングを施行。手術後, 坐位保持能力の改善が認められた。同年8月膀胱直腸障害,感覚障害,両上下肢麻痺の増悪。同年11月腰髄腫瘍増大を認め摘出目的にて入院。両下肢MMT0,両下肢感覚脱失,坐位保持困難であった。手術前後において坐位保持能力の向上と車椅子移乗動作改善を目標に拘縮予防,坐位・立位保持トレーニング,車椅子移乗トレーニングを施行した。手術後表在感覚の改善を認めたが麻痺の著明な改善は認められず,移乗動作も監視レベルでの退院となった。また入院中にパソコンボランティア集会への参加を促した。参加後,現状の能力で実現可能な職種,取得可能な資格の提案した。2002年1月頚髄腫瘍摘出目的にて再入院。手術後神経学的な回復に伴いMMT上肢4-5,下肢3,体幹4まで改善した。車椅子移乗の自立を目標にプッシュアップによる床上からの車椅子移乗,階段昇降トレーニングを施行。退院時,車椅子移乗の自立,それによるADL拡大となり,コンピュータ関連企業の訪問を行い,自宅退院となる。同年4月近医にて外来理学療法開始。実用的な移動手段は車椅子であるが,同年7月から平行棒内歩行可能,同年10月よりロフストランド杖使用による短距離歩行可能となった。同月コンピュータ関連の国家試験を受験。【考察】NF2は,多発する腫瘍の増殖速度が変化し臨床症状は一定しない。そのため,腫瘍増大による症状変化や神経学的治療効果を評価し,その時期の能力維持を図ることが必要になる。今回,若年発症の症例に対して座位保持,車椅子移乗動作などの能力維持を目的に理学療法を施行し,社会参加に対してはコンピュータの利用を提案した。これらにより変動する病期に対してもモチベーションが持続し,理学療法が円滑に進んだと考える。若年性の発症では,実現可能な目標の設定,社会参加への援助等が重要であると考えられた。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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