脳卒中患者におけるDual taskと転倒について
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概要
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【はじめに】脳卒中片麻痺患者の治療にあたり,一生懸命獲得した歩行能力が本当に応用性のある歩行か判断する事は,大きな課題である.近年,「歩行(一次課題)中に水入りコップを運ばせる(二次課題)というタスク(Dual task)と転倒との関係」が示唆されている(Haggrdら).しかし,片麻痺に関する研究は少なく,因果関係は解明されていない.そこで今回, 片麻痺患者におけるDual taskと転倒との関係について検討した.【対象】当院入院または外来通院中で,監視下または自立歩行が可能な脳卒中片麻痺患者29例(疾患;脳梗塞18例,脳出血11例,性別;男性19例,女性10例,障害側;右17例,左12例,平均年齢63.2±11.3歳)であった.【方法】全対象者に研究の方法と目的を説明の上,合意を得られた対象者に以下の測定をした.訓練室内にて10mの直線路を自由歩行し,その時間を測定した(Single task).次に,上端から3cmまで水が入ったコップを「こぼさない様に注意」しつつ,10m歩行時間を測定した(Dual task).その際,杖を使用している患者には,コップを杖の上部に装着し,歩行補助具は日常使用しているものとした.測定後,過去一年間に転倒経験のある転倒群(以下A群;n=13)と非転倒群(以下B群;n=16)に分け,A・B群の平均歩行速度,Dual task歩行時間,歩行速度の増加率を算出し,T-検定にて比較した.また,2群の歩行時間平均間にいる症例(歩行時間より転倒リスク判別困難例)を抽出し,同様に転倒群・非転倒群を比較した.【結果】(1)10m歩行時間はA群にて42.3±17.3秒,B群にて20.5±12.0秒であり,有意な差が認められた(P<0.01).(2)Dual task歩行時間は,A群は60.7±28.1 秒,B群は22.8±14.4秒と二群間で有意差があった(P<0.01). (3)Dual task歩行の所要時間増加率はA群で141.9±22.7%,B群で107.9±17.7%と有意差があった(P<0.01).(4) 2群の歩行時間平均間にいる症例は11例存在した(A群;n=6,B群;n=5).10m歩行時間に有意差は無かったものの,Dual task歩行時間はA群で37.8±10.3秒,B群で28.3±5.5秒(P<0.05),Dual task歩行時間増加率はA群で128.4±11.2%,B群にて111.5±4.8%(P<0.01)と有意に増加した.【考察】本研究結果より, Dual taskを課すことにより,10m歩行時間だけでは判断し難い,潜在的な転倒リスクを抽出しうる可能性が示唆された.つまりDual taskは,歩行がどれくらい自動処理過程となっていて,外部環境へ適切に注意を分配しうるか評価できる可能性のある課題と思われた.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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