心疾患患者の予後予測:最大酸素摂取量と換気効率からの検討
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概要
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【はじめに】最高酸素摂取量(peak VO<SUB>2</SUB>)は心疾患患者の予後予測因子の一つであることが知られている.しかし,運動負荷試験で心疾患患者を最高レベルまで運動させることができたかどうかの判定は難しく,また,予後予測のためのpeak VO<SUB>2</SUB>の基準値は10から18ml/kg/minと研究者の中でも一定しない.近年,心疾患患者の予後予測の指標として二酸化炭素排出量(VCO<SUB>2</SUB>)に対する分時換気量(VE)の割合(VE-VCO<SUB>2</SUB> slope)が注目されているが,邦人を対象とした検討は少ない.そこで本研究では心疾患患者の予後予測因子としてのVE-VCO<SUB>2</SUB> slopeの有用性を検討した.【対象と方法】1996から1999年に当院にて心肺運動負荷試験を受けた心疾患患者215例(平均年齢59.5(12-85)歳,虚血性心疾患89例,拡張型心筋症38例,弁疾患37例,高血圧性心疾患33例,その他18例)を対象に,心肺運動負荷試験後3年間の心イベント(心臓死と心不全などによる再入院)発生率を調査した.対象215例をpeak VO<SUB>2</SUB>を指標とした場合は14ml/kg/min以上と未満の2群に分け,VE-VCO<SUB>2</SUB> slopeを指標とした場合は36以上と未満の2群に分けて,2群間の3年間の心イベント発生率を比較した.心イベント発生率の比較検定にはKaplan-Meier法を用いた.【結果と考察】観察期間中,43件の心イベントがあり,4人が死亡し,39人が再入院した.peak VO<SUB>2</SUB>を指標とした場合,2群間で3年間の心イベント発生率に差を認めなかったが,VE-VCO<SUB>2</SUB> slopeを指標にした場合は,VE-VCO<SUB>2</SUB> slopeが36以上の群では3年間の心イベント発生率が38.6%であったのに対して,VE-VCO<SUB>2</SUB> slopeが36未満の群では18.1%と有意に低い値であった.また,peak VO<SUB>2</SUB>が14ml/kg/min以上の患者のみを抽出しても,VE-VCO<SUB>2</SUB> slopeが36以上の患者と36未満の患者では3年間の心イベント発生率に有意な差を認めた.運動負荷試験でpeak VO<SUB>2</SUB>を求める場合,異常心電図や目標心拍数以外にも被験者の主観的疲労度で運動を終了する場合があり,最高レベルまで運動させることができたかどうかの判定は難しい.一方,VE-VCO<SUB>2</SUB> slopeは肺内での換気血流不均衡に影響され,被験者の意思によって調節することができない(再現性のよい)換気効率の指標である.心疾患患者の換気血流不均衡は心不全を起源としているために,peak VO<SUB>2</SUB>が比較的高い心疾患患者でも,VE-VCO<SUB>2</SUB> slopeが高値を示す場合は潜在的な心不全(換気血流不均衡)を有し,予後に影響する可能性があると考えられた.【まとめ】VE-VCO<SUB>2</SUB> slopeは心疾患患者の予後予測に重要な指標である.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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