股関節疾患における歩きはじめの側方動揺性と股関節外転筋力との関連性について
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概要
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【はじめに】股関節疾患の症例では、股関節外転筋の筋力低下や疼痛により歩行時に側方動揺性の問題があることが多い.そこで、本研究では歩行時の側方動揺性と股関節外転筋筋力との関連性を分析することを目的として、3次元動作解析装置とハンドヘルドダイナモメータを用いて、頭頂のマーカ位置と股関節外転筋力を計測した.その結果を用いて、定量的に解析し、興味ある知見を得たので報告する.【方法】対象は、股関節に既往のある患者7名(女性6名、男性1名、年齢47歳から82歳、平均年齢70歳、身長155.4±6.5cm、体重53.1±6.9kg、大腿骨頚部骨折術後4名、変形性股関節症術前1名、術後2名)とした.健常群を健常成人女性10名(年齢22歳から29歳、平均年齢25.5歳、身長159.0±3.2cm、体重52.0±4.0kg)とした. 歩行時の側方動揺性については3次元動作解析装置(ライブラリー社製、ACTANA)を用いた.被験者はスイムキャップをかぶり、頭頂にマーカを貼付した.運動課題は、床上の直線に沿った歩行とした.得られた頭頂マーカの水平面上の軌跡について、歩きはじめと4歩目のfoot flat時の頭頂マーカを結ぶ線分をY軸、左右方向をX軸として振幅を算出した.振幅は1歩ごとのX軸方向のピーク値の絶対値の和とした. 股関節外転筋力の計測は、ハンドヘルドダイナモメータ(JTECH社製、パワートラック II MMTコマンダー)を用いて側臥位で実施した.計測装置は大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線分の中心にアタッチメントをあて最大努力での外転運動時に2回計測した.計測結果は各被験者の体重で正規化した相対筋力とした. これらの計測結果から側方動揺性と筋力との関連を分析した.【結果】振幅と疾患群患側筋力および健常群平均筋力の相対筋力には関連があり、疾患群では相対筋力が約40%以下になると、振幅が大きくなる傾向が認められた(p<0.05).しかし、健常群・疾患群ともに振幅は立脚期の左右による違いを認めなかった.また、健常群・疾患群ともに、筋力の左右差による振幅の大きさに違いは認められなかった(p>0.05). 【考察】今回の結果から、股関節外転の相対筋力が約40%以下になると、歩行時の側方動揺が増大することが示唆された.このことから、股関節疾患患者の歩行時における立脚期の側方安定性を高めるためには、股関節外転筋力が体重の40%以上まで回復することが一つの指標になると考えられる.以上から歩き始めに関して頭頂を指標とした側方動揺性は、股関節外転筋力が重要であることがわかった.今後は、他のパラメータも視野に入れ、理学療法過程における歩行時の側方動揺性と外転筋筋力との関連性の経時的変化を解析し、そこから筋力強化および歩行練習の効果を定量的に検討していきたい.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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