変形性股関節症患者における坐面傾斜角の認知能力の違いについての一考察
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概要
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【はじめに】変形性股関節症患者では器質的障害や疼痛によって股関節機能が破綻し、骨盤傾斜と体幹動揺を伴った代償歩行を呈しやすい。罹患期間が長期に及ぶ場合、このような代償歩行は習慣化されやすく、関節機能低下の影響が隣接部位まで及んでいることが推測される。関節は情報器官としても重要な役割を担っており、関節の損傷は正常とは異なる運動様式を出現させるため、隣接部位においても正常な認知が障害されている可能性が考えられる。今回、股OA患者に対して骨盤傾斜の認知能力を調査し、健常高齢者と比較検討を行ったので報告する。【対象】対象は当院に手術目的にて入院した股OA患者7例(股OA群、56.2±8.5歳、全例女性)とした。また、内科的および整形外科的疾患を有さない健常高齢者17例(健常群、66.2±2.5歳、男性7例、女性10例)を比較対照群とした。被験者には検査の趣旨を説明し同意が得られた。【方法】検査肢位は大型単軸不安定板上で股関節80゜足関節0゜の端坐位とし、両上肢は胸部前面で交差させた。検査には大型単軸不安定板と高さの異なる4つのブロックを用いた。傾斜角度が0゜、2゜、4゜、6゜となるように4つのブロックを作成した。必ず片側に最も高さの高いブロックを配置し、坐面の傾斜角度が2゜、4゜、6゜となるように設定した。測定は、不安定板を他動的に傾斜させ、被験者には高いブロックが配置されていると感じた側を口頭にて解答させた。測定回数は各傾斜角度を左右それぞれ5回ずつランダムに行い、合計30試技とした。すべての試技は閉眼及び裸足にて行い、解答に対する結果の知識は与えなかった。検査結果は得点化し、各傾斜角度での両群間における正解率を算出した。統計学的処理は対応のないt検定を用い、有意水準を5%とした。【結果】股OA群の平均正解率は傾斜角度2゜にて75.7%、4゜にて82.9%、6゜にて98.6%であり、同様に健常群においては2゜にて85.3%、4゜にて97.1%、6゜にて99.4%であった。傾斜角度4゜において股OA群と健常群の間に有意な差が認められた(p<0.05)。【考察】今回の研究結果より股OA群と健常群では坐面傾斜角の正解率に差異があり、代償部位である骨盤の傾斜角認知能力が低下していることが明らかとなった。代償歩行は異なった知覚情報をもとに運動の組織化が行われた結果であり、これが習慣化された場合、学習過程が働かなくなると沖田は述べている。股OA患者に正しい歩行様式を獲得させるには適切な知覚情報を与えることは不可欠であり、そのためには、骨盤傾斜角の認知能力を適正化させる必要があると考えられた。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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