研究会 第27回 河口湖心臓討論会 主題:病態における心筋イオンチャンネル 虚血,再酸素化時の心筋のイオン動態と膜電流の変化
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概要
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虚血および無酸素が細胞膜を介するイオン動態や膜電流に及ぼす効果を,ブタ開胸心,ラット,モルモットの摘出心臓標本,および単一心室筋細胞を用いて検討した.<BR>急性冠動脈閉塞時に出現する心室性不整脈(VA)の発生機序の主要な原因の一つとして心筋細胞からのカリウムイオンの喪失があげられる.ブタ開胸心臓と摘出心臓での実験結果から,虚血心筋において細胞外カリウムイオン濃度([K+]e)の特徴的な三相性の増加が観察された.[K+]e,は虚血開始後,数秒以内に急速に増加が始まり,虚血5-6分目にはおよそ15mmol/lに達したが,その後,虚血10-12分目にかけてわずかに減少する("プラトー相").そして再び[K+]e,はゆっくりとした速度で増加を始め,虚血30分目には約17mmol/lになった.心室細動(VF)は虚血開始後2-6分でみられる最初の急速な[K+]e,の増加相と,虚血12-35分でみられる2番目の緩徐な[K+]eの増加相の両方に出現した.しかしながら,[K+]eが一過性に減少する"プラトー相"ではVFの出現は認められなかった.<BR>ラットやモルモットの摘出心臓にPVC微小電極を適用し,細胞外液のK+,Na+,Ca2+,H+濃度([K+]e,[Na+]e,[Ca2+]e,[H+]e)とtetramethylammonium-chloride(TMA)の濃度の変化を総体虚血(global ischemia,GI)中に測定した.TMAは細胞外間隙(ECS)の変化の指標として用いた.ECSの相対的な変化と陽イオンの動きは細胞外液のTMAと陽イオンの濃度の変化から計算した.60分間の総体虚血(GI)後にECSは細胞質内(ICS)への水の移動により74%減少した.GI開始後10秒以内に細胞外のカリウム濃度は特徴的な三相パターンで増加した.K+の流出は二相性で虚血開始後2分目と15分目に最大になり,7分目にはおそらくNa+/K+ATPaseの亢進により細胞内へのK+の取り込みが最大となるために抑制された.[Na+]e,と[Ca2+]eの濃度変化は二相性であり,[Na+]eが最初に,次いで[Ca2+]eが増加した.Na+とCa2+の流入が最大になるのはGI後2分目と19分目であることが計算上求められた.H+の細胞外間隙への蓄積は主としてGIの最初の20分間に生じた.これらのことから次のように結論づけられる.(1)TMAはGIの際のECSの大きさの変化を連続的に測るための有用なマーカーである.(2)細胞外のイオン濃度の変化はECSからICSへの水の移動により大きく影響される.(3)Na+/K+ポンプの亢進はK+の取り込みを増加させ,Na+の細胞内への取り込みを減少させると思われる.(4)Ca2+の取り込みもおそらくCa2+ATPaseの増加により一時的に減少する.(5)細胞内イオン環境の恒常性を維持するためのエネルギー依存性防御機構は,摘出ラットの作業心(Workingheart)ではおよそ15-20分間のGIで停止すると考えられる.<BR>モルモット単一心室筋細胞をPO2<0.1torr以下の無酸素(アノキシア)に暴露すると時間非依存性のK+電流の出現を認めた.この電流を細胞全記録型または細胞接着型パッチクランプ法を用いて研究した.細胞全記録法ではアノキシアによる変化が出現するまでの潜時は指数関数的に分布した(平均10.5分,n=41).このK+電流は再酸素化すると2-4秒以内に急速に消失した.アノキシアによって出現する細胞全膜電流は,外液K+が5.4および15mmol/lの時,それぞれの逆転電位は-82mVと-62mVであった.細胞全膜電流を用いて電流ノイズ解析を行うと,アノキシアにより外向き電流がゆっくり出現してくる時相での単一チャネル電流の接線コンダクタンスは8.1pS(外液K+が5.4mmol/lの場合)であり,これはNa+,Mg2+を含まない溶液中で内面外面型パッチにより求めたKATPチャネルのそれ(30pS)よりかなり小さかった.10.4mmol/lのK+を含んだ電極を用いた細胞接着型単一チャネル記録においても,アノキシアによって誘発される単位電流の大きさは比較的小さかった.一方150mmol/lのK+を含んだ電極を用いた時には,アノキシアにより83pSの接線コンダクタンスを有する単一内向き電流が出現した.またこのチャネルは再酸素化により1-3秒以内に閉鎖した.グリベンクラミド(1μmol/l)はこれらアノキシアで誘発される細胞全および単一チャネル電流を可逆的にブロックした.以上のことから細胞膜直下のATP濃度が十分に減少した際に活性化することが知られているKATPチャネルがアノキシアによって活性化されることが判明した.
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