馬鈴薯澱粉の流動学的研究 : (第1報)澱粉糊の粘弾性の測定
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概要
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馬鈴薯澱粉は組成中に多価電解質の分子を有し,高弾性の糊を形成する特性をもつので,市販馬鈴薯澱粉を用いて, E. HATSCHEK, H. J. POOLE等の方法と同様の原理のレオメーターにより,糊の糊化条件,放置時間,界面活性剤の添加等の粘弾性率への影響,糊の弾性率の温度による変化,及びアミロース,アミロペクチンのアルカリ糊化糊の粘弾性率の測定を行つた. 1) 水中加熱の糊は,攪拌,加熱の温度及び時間等の糊化条件が粘弾性率,老化速度に著しく影響する. 2) 攪拌,濾過による澱粉粒の機械的破壊などによつて,糊の粘弾性率は減少し,且つ,老化の速度も遅延する. 3) オートクレーブで処理した糊とアルカリによつて糊化した糊との粘弾性率は近似しており,澱粉の分散状態の類似していることが推測される. 4) 糊化条件の異る澱粉-水糊にpolyoxyethylene sorbitan monostearateを澱粉重量の1%添加した結果, (a)糊化不十分の糊に添加した場合は,対照に比較して粘弾性率がやや増大し,且つ,著しく老化を抑制する効果を認めた. (b)糊化の比較的十分な糊に添加した場合には,粘弾性率は共に減少して,剪断応力に対して流動しやすい糊になつた.しかし,老化の抑制に対する顕著な効果は認められなかつた. 5) 澱粉-水の常圧及び加圧糊化した糊について,弾性率の温度による変化について測定した. (a) 16.4〜55°の範囲においては20〜30°附近で弾性率がやや上昇するが,大体において,温度の昇降に伴つて弾性率は可逆的に低下,上昇する.また, 60°において弾性率の上昇がみられ,これは糊中の未糊化の部分の糊化が僅かに進んだためであろう. (b) 16.4〜80°に亘る広範囲の温度の実験において,同様に60〜70°においての弾性率の上昇がみられ, (a)及び(b)より60°附近に糊化開始温度があるであろうと推考した. (c)オートクレーブで処理した糊においては, 60〜70°における弾性率の増加はなく,却つて著しく減少し, 80°において再び増大する傾向が観察された.このことについては今後実験を重ねたい. 6) アミロース,アミロペクチンのアルカリ糊化糊の粘弾性率の測定実験を行い, (a)アミロースは騨性のみでその値は高く,且つ,放置時間と共にほぼ直線的に増加する.これは急速に部分的ミセル形成が行われ,網目構造が発達するためであろうと考えられる. (b)アミロペクチンは粘弾性的で,その値はアミロースに比較して非常に低い.また老化速度もアミロースより遙かに緩徐であり,これは分子の分枝していることや静電気的粘性効果のためであろう. (c)アミロース20%,アミロペクチン80%の割合に混合した糊液では,糊は粘弾性的であるが,その弾性率は(b)より更に低く,且つ,短時日で老化した.
- 社団法人 日本農芸化学会の論文
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