嘔吐発現機構における延髄最後野のタキキニンNK-1受容体の役割
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
サブスタンスP(SP)に代表されるタキキニン・ペプチド類には,NK-1,NK-2およびNK-3の3つの受容体が存在し種々の生理反応に関与している。中でもSPとNK-1受容体は延髄の最後野や弧束核に密に存在し,嘔吐に強く関与していると考えられるが,詳細な作用機序は明らかではない。そこで本研究では,嘔吐発現機構における特に延髄最後野のタキキニンNK-1受容体に注目し,新たに開発されたNK-1受容体拮抗薬HSP-117による制吐作用についてフェレットを用いて検討した。フェレットの延髄の<SUP>3</SUP>H-SPの結合部位は,弧束核,舌下核,迷走神経背側核,および最後野に密に分布していた。さらに最後野を含む延髄切片をSPで灌流すると,最後野の約50%の細胞に興奮反応が認められた。このSPによる神経活動興奮反応はNK-1受容体アンタゴニストのCP-99,994によって著しく抑制されたことから,フェレットの延髄最後野にNK-1受容体が存在することが明らかとなった。タキキニンNK-1受容体拮抗薬HSP-ll7とCP-99,994のNK-1受容体に対する選択性を,IM-9細胞の膜標品に対する<SUP>3</SUP>H-SPの結合阻害実験から調べた。SP,HSP-117およびCP-99,994は,それぞれ<SUP>3</SUP>H-SPの結合を濃度依存的に阻害した。HSP-117による阻害は,SPとほぼ同程度で,CP-99,994に比べると約50倍強かった。硫酸銅の経口投与およびモルヒネの皮下投与によって発現する嘔吐反応は,HSP-117およびCP-99,994を脳室内前投与することによってそれぞれの著明に抑制され,その抑制効果はCP-99,994よりHSP-117の方が強かった。さらに,これらの嘔吐反応は最後野の除去,あるいはCP-99,994とHSP-ll7をそれぞれ直接最後野に前投与することにより有意に抑制された。以上のように,最後野のタキキニンNK-1受容体は種々の嘔吐に関わっていることが明らかとなった。さらに,今回用いたHSP-ll7は,タキキニンNK-1受容体拮抗薬として高い選択性と強い嘔吐抑制を有していることが明らかになった。
- 社団法人 日本薬理学会の論文
著者
-
高野 行夫
福岡大学薬学部生体機能制御学教室
-
神谷 大雄
福岡大学薬学部薬理学教室
-
斎藤 亮
福岡大学薬学部生体機能制御学教室
-
本多 健治
福岡大学薬学部薬理学教室
-
有海 秀人
福岡大学薬学部薬理学教室
-
窪田 寿彦
福岡大学薬学部薬理学教室
-
名古 佐知子
福岡大学薬学部薬理学教室
-
本多 健治
福岡大学薬学部生体機能制御学教室
-
高野 行夫
福岡大学薬学部薬理学教室
関連論文
- バソプレッシン受容体欠損マウスの精神疾患モデルとしての解析
- 90 術前の顔面計測による乳児唇裂症手術手技の調節(形成外科)
- 疼痛試験法の実際
- ラットを用いた簡便な嘔吐測定法
- 37. 平滑筋細胞からのATP放出とイノシトール : 三リソ酸生成のカップリング
- 薬理論理学の勧め
- 臨床薬理学・医療薬学の教育:現状の問題と改善のためのストラテジー
- 我が国の私立薬科大学における薬理学教育の現状 (薬理学教育の現状と未来) -- (薬学部の薬理学教育事情)
- 将来の薬理学教育に向けて (薬理学教育の現状と未来)
- バソプレシンによる最後野から孤束核への神経調節
- タキキニン・ペプチドとその生理的役割
- P-10. 平滑筋細胞におけるペプチド誘発ATP放出の細胞内シグナリング
- 嘔吐発現機構における延髄最後野のタキキニンNK-1受容体の役割
- 神経障害痛モデルにおけるミノサイクリンの抗アロディニア作用
- バソプレッシン受容体欠損マウスの統合失調症モデルとしての可能性
- ヒトてんかんと同じ遺伝子異常をもつモデル動物