アンゴラ北東部におけるチョクウェの「親指ピアノ」の多様性と生活世界
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
「親指ピアノ」は, アフリカで生まれ, 現在でもサハラ以南のアフリカ各地に広くみられる楽器である。本稿では, アンゴラ北東部に暮らすチョクウェの音文化のなかで「親指ピアノ」に焦点をおいて, その楽器の形態やそこから演奏される曲の歌詞を分析することから, チョクウェの音文化と生活とのかかわりあいを把握する。調査は, アンゴラ北東部のドュンド町内や近郊に住む9人の演奏者を対象にして, 聞き取り調査や演奏曲を録音する作業をおこなった。チョクウェは, アンゴラ東部を中心にして居住するバンツー系の人々である。彼らは, キャッサバ栽培などの農耕を中心として, 狩猟, 漁労, 出稼ぎなどを複合させた生業を営んでいる。まずこの地域では, 各々の形態の違いに応じて独自の名称を持つ8種類の「親指ピアノ」を確認できた。また, 収集された43曲は, 男性によって単独で演奏されるのもので, すべての曲に歌詞がついていた。このうち31曲の歌詞の内容を分析すると, 経済生活, 男女関係や親子関係, 日常生活, 出来事, 割礼儀礼, 植民地時代の歴史などに分類される。さらに, 1960年代の報告と現在のものとを比較すると,「親指ピアノ」は, 娯楽としては使われている点では共通しているものの儀礼の際には用いられなくなっていた。本稿ではこの楽器の機能として, 歌詞のなかに登場していた様々な出来事が次の世代に伝承されていくことから, 当時の生活世界が反映された個人史が伝承される点に注目している。
著者
関連論文
- シベリア北東部におけるチュクチの海獣狩猟の生態人類学 (第20回北方民族文化シンポジウム報告 第20回記念大会 文化の十字路--北太平洋沿岸の文化)
- 岡恵介著, 『視えざる森の暮らし-北上山地・村の民俗生態史』, 東京, 大河書房, 2008年, 220頁, 3,200円(+税)
- 獣害の地理学 : 北上山地のクマと人とのかかわり
- 地球環境問題をどうとらえるか : 人類学の可能性
- バングラデシュにおける遊牧在来豚の養豚経営
- バングラデシュにおける在来豚の飼養と形態の特徴 : 特に西側地域の集団について
- カラハリ狩猟採集民における生業と分配--危機に対する戦略としてのモラル・エコノミー (特集 アフリカ・モラル・エコノミーの現代的視角)
- 平等主義社会における貯蔵と分配--アフリカ狩猟採集民の事例 (特集 社会の考古学) -- (社会民族誌の研究)
- 「特集 環境をめぐる正当性/正統性の論理」『環境社会学研究 第11号』, 東京, 有斐閣, 2005年10月, 287頁, 2,500円(+税)
- ボツワナの自然保護区とカラハリ先住民をめぐる政治生態学 (特集 変貌するアフリカ・変貌する諸学との対話へむけて--21世紀のアフリカ研究と生態人類学)
- 講演3 変貌するアフリカと生態人類学の新たな枠組み (学会通信 日本アフリカ学会第42回学術大会記念シンポジウム報告 変貌するアフリカ・変貌する諸学との対話--生態人類学,47年後の意味)
- 〈人為の加わった森〉の環境史 (特集 里山・里海--暮らしの中の山と海) -- (里山)
- 採集狩猟民の伝統と近代〔含 質疑応答〕 (特集 春季企画/連続シンポジウム 先住民という言葉に内実を与えるために) -- (シンポジウム1 伝統は近代を変えることができるか--「野生の思考」の挑戦)
- 書評 『アフリカ自然学』(古今書院,水野一晴編)
- 書籍案内 特集に関連する書籍の紹介 (地理の研究(172)) -- (特集(2)アフリカ)
- アフリカの民族文化の伝統と変容 (地理の研究(172)) -- (特集(2)アフリカ)
- 牧畜民研究の新たな展開を求めて : 第15回国際人類学・民族学会議
- アフリカを対象にした環境史研究の動向--イギリス保護領ベチュアナランドの社会史
- 砂漠の美術館ツォディロ・ヒルズ--ボツワナ,カラハリ砂漠に残された岩絵群
- インド農村におけるラクダ牧畜の意義について : ラージャスターン州の事例
- 狩猟採集民研究は、人類学理論にいかに貢献できるか : 第9回国際狩猟採集社会会議に参加して
- セッション4 討論
- Dry Farming among the San in the Central Kalahari
- チュコト自治管区におけるトナカイ牧畜の地域的変化について (第17回北方民族文化シンポジウム報告 北太平洋沿岸の文化--資源利用のあり方)
- リーディング・ガイド
- 人類学に何が求められているのか?
- 地球環境問題への挑戦
- インド北西部における移動牧畜に関する近年の研究動向 : 家畜の経済的側面を中心にして(2002年度地理科学学会春季学術大会)
- インド西北部におけるトランスヒューマンスについて : ラージャスターン州パリディストリクトの事例
- アンゴラ北東部におけるチョクウェの「親指ピアノ」の多様性と生活世界 (特集2:アフリカン・ポップスの諸相)
- 20世紀前半における"トナカイチュクチ"とアメリカ人との毛皮交易 : シベリア北東部のチャウン地区の事例
- ドイツのエキスポ二〇〇〇とアフリカパビリオン
- 博物館展示からみたサン文化の表象について : サン・アートの展示の事例から
- 岸上伸啓著『極北の民カナダ・イヌイット』
- 狩猟民と毛皮交易 : 世界経済システムの周辺からの視点(世界システム論と人類学)
- 第一四回 国際人類学・民族学会議に出席して : ノマディック・ピープルのコミッションの活動から
- 変貌する南アフリカ -都市からの展望-
- シベリア北東部におけるチュクチのトナカイ牧畜と放牧テリトリー
- 無文字社会における移動空間の歴史的復元の試み
- カラハリ中部における狩猟採集・農牧複合
- カラハリ狩猟採集民における生業と分配 : 危機に対する戦略としてのモラル・エコノミ
- アンゴラ北東部におけるチョクウェの「親指ピアノ」の多様性と生活世界
- 日本アフリカ学会第42回学術大会記念シンポジウム報告 : 変貌するアフリカ・変貌する諸学との対話―生態入類学、47年後の意昧
- 水野一晴編『アフリカ自然学』古今書院, 2005年, 257頁, \3,990
- ボツワナの僻地開発--カデ地区の道路工事・民芸品生産をめぐって
- Hunting with Dogs among the San in the Central Kalahari
- The Elusive Granary--Herder,Farmer,and State in Northern Kenya/Peter D.Little(1992)
- Goat Raising among the San in the Central Kalahari