狩猟民と毛皮交易 : 世界経済システムの周辺からの視点(<特集>世界システム論と人類学)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
毛皮は, かつて"柔らかい宝石"と呼ばれ, 西ヨーロッパや中国において上流階級のステータス・シンボルを示した。本稿では, 世界システム論の視点から, 世界の毛皮をめぐる中核と周辺の変化の動態を把握する枠組を提示したあとに, カラハリ砂漠における毛皮交易の盛衰を通して狩猟民の社会変化を把握することを目的とする。16世紀以降の毛皮交易史をみていくと, 世界には西ヨーロッパ, 中国, 日本, アメリカという4つの中核が存在してきたこと, 北アメリカ, シベリア, 中国東北部に加えて南部アフリカも毛皮交易の発達がみられた地域であること, 1930年頃にはサン, ピグミー, イヌイット, オロチョンなどの世界の周辺に暮らしていた人々が, 共通に世界経済システムの周辺に組み込まれていたことが明らかになった。また, カラハリ砂漠において毛皮交易の盛衰をみていくと, サンのなかには毛皮の運搬や猟法の変化などのように直接的影響を受けていた人々とカラハリとの毛皮の交換を通して無意識のうちに世界システムに巻き込まれていった人々という2つの対応がみられた。とりわけ1930年代には, サンがカラハリに従属する関係がみられたが, 毛皮税の支払いがなくなると, サンの自立性が高まっていった。しかし, この地域での毛皮交易の永続性は短く, 1950年代におけるサンによる農場への労働力移動という側面が, 社会変容に大きな影響を与えていた。以上をふまえて, 人類学における世界システム論の視点を用いた研究では, 世界的に毛皮の流通が世界の周辺にまで浸透していた点や現存している人々から聞き取り調査の可能な点から, 1930年代の毛皮交易による社会変化の復元に焦点を置くことで新しい成果が生まれると考えられる。
- 日本文化人類学会の論文
- 1999-09-30
著者
関連論文
- シベリア北東部におけるチュクチの海獣狩猟の生態人類学 (第20回北方民族文化シンポジウム報告 第20回記念大会 文化の十字路--北太平洋沿岸の文化)
- 岡恵介著, 『視えざる森の暮らし-北上山地・村の民俗生態史』, 東京, 大河書房, 2008年, 220頁, 3,200円(+税)
- 獣害の地理学 : 北上山地のクマと人とのかかわり
- 地球環境問題をどうとらえるか : 人類学の可能性
- バングラデシュにおける遊牧在来豚の養豚経営
- バングラデシュにおける在来豚の飼養と形態の特徴 : 特に西側地域の集団について
- カラハリ狩猟採集民における生業と分配--危機に対する戦略としてのモラル・エコノミー (特集 アフリカ・モラル・エコノミーの現代的視角)
- 平等主義社会における貯蔵と分配--アフリカ狩猟採集民の事例 (特集 社会の考古学) -- (社会民族誌の研究)
- 「特集 環境をめぐる正当性/正統性の論理」『環境社会学研究 第11号』, 東京, 有斐閣, 2005年10月, 287頁, 2,500円(+税)
- ボツワナの自然保護区とカラハリ先住民をめぐる政治生態学 (特集 変貌するアフリカ・変貌する諸学との対話へむけて--21世紀のアフリカ研究と生態人類学)
- 講演3 変貌するアフリカと生態人類学の新たな枠組み (学会通信 日本アフリカ学会第42回学術大会記念シンポジウム報告 変貌するアフリカ・変貌する諸学との対話--生態人類学,47年後の意味)
- 〈人為の加わった森〉の環境史 (特集 里山・里海--暮らしの中の山と海) -- (里山)
- 採集狩猟民の伝統と近代〔含 質疑応答〕 (特集 春季企画/連続シンポジウム 先住民という言葉に内実を与えるために) -- (シンポジウム1 伝統は近代を変えることができるか--「野生の思考」の挑戦)
- 書評 『アフリカ自然学』(古今書院,水野一晴編)
- 書籍案内 特集に関連する書籍の紹介 (地理の研究(172)) -- (特集(2)アフリカ)
- アフリカの民族文化の伝統と変容 (地理の研究(172)) -- (特集(2)アフリカ)
- 牧畜民研究の新たな展開を求めて : 第15回国際人類学・民族学会議
- アフリカを対象にした環境史研究の動向--イギリス保護領ベチュアナランドの社会史
- 砂漠の美術館ツォディロ・ヒルズ--ボツワナ,カラハリ砂漠に残された岩絵群
- インド農村におけるラクダ牧畜の意義について : ラージャスターン州の事例
- 狩猟採集民研究は、人類学理論にいかに貢献できるか : 第9回国際狩猟採集社会会議に参加して
- セッション4 討論
- Dry Farming among the San in the Central Kalahari
- チュコト自治管区におけるトナカイ牧畜の地域的変化について (第17回北方民族文化シンポジウム報告 北太平洋沿岸の文化--資源利用のあり方)
- リーディング・ガイド
- 人類学に何が求められているのか?
- 地球環境問題への挑戦
- インド北西部における移動牧畜に関する近年の研究動向 : 家畜の経済的側面を中心にして(2002年度地理科学学会春季学術大会)
- インド西北部におけるトランスヒューマンスについて : ラージャスターン州パリディストリクトの事例
- アンゴラ北東部におけるチョクウェの「親指ピアノ」の多様性と生活世界 (特集2:アフリカン・ポップスの諸相)
- 20世紀前半における"トナカイチュクチ"とアメリカ人との毛皮交易 : シベリア北東部のチャウン地区の事例
- ドイツのエキスポ二〇〇〇とアフリカパビリオン
- 博物館展示からみたサン文化の表象について : サン・アートの展示の事例から
- 岸上伸啓著『極北の民カナダ・イヌイット』
- 狩猟民と毛皮交易 : 世界経済システムの周辺からの視点(世界システム論と人類学)
- 第一四回 国際人類学・民族学会議に出席して : ノマディック・ピープルのコミッションの活動から
- 変貌する南アフリカ -都市からの展望-
- シベリア北東部におけるチュクチのトナカイ牧畜と放牧テリトリー
- 無文字社会における移動空間の歴史的復元の試み
- カラハリ中部における狩猟採集・農牧複合
- カラハリ狩猟採集民における生業と分配 : 危機に対する戦略としてのモラル・エコノミ
- アンゴラ北東部におけるチョクウェの「親指ピアノ」の多様性と生活世界
- 日本アフリカ学会第42回学術大会記念シンポジウム報告 : 変貌するアフリカ・変貌する諸学との対話―生態入類学、47年後の意昧
- 水野一晴編『アフリカ自然学』古今書院, 2005年, 257頁, \3,990
- ボツワナの僻地開発--カデ地区の道路工事・民芸品生産をめぐって
- Hunting with Dogs among the San in the Central Kalahari
- The Elusive Granary--Herder,Farmer,and State in Northern Kenya/Peter D.Little(1992)
- Goat Raising among the San in the Central Kalahari