抗原決定基(エピトープ)
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概要
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花粉症をはじめとする様々なアレルギー症状を持つ人が年々増加し,今や我が国の国民の3人に1人が何らかのアレルギーを持っているといわれている.このアレルギーを引き起こす物質をアレルゲンと呼ぶが,アレルギー症状を引き起こす免疫システムと,アレルゲンのもつ化学構造のインターフェースとなっているのが抗原決定基(エピトープ)である.即ち,アレルゲンのみならず,ある物質がそれに対する抗体を誘発する場合,免疫システムによって認識される部位がエピトープである.アレルゲンをはじめとし,抗体産生を誘発する抗原はその分子内にいくつものエピトープを持っている.これらエピトープは生体内で抗体産生に携わるT細胞によって認識されるT細胞エピトープと,B細胞によって認識され,また抗体の結合部位になるB細胞エピトープとに分類されている.抗体等によって認識される構造単位であるエピトープであるが,タンパク質中の特定のアミノ酸配列だけでなく,糖鎖の一部,低分子物質なども含まれる.糖鎖抗原としてはABO式血液型抗原が有名であり,アレルゲンに関してもミツバチ毒ホスホリパーゼA2,オリーブ花粉アレルゲン等のB細胞エピトープは糖鎖部分であることが示唆されている.T細胞に抗原が認識される場合,まず抗原はマクロファージ,B細胞等の抗原提示細胞に取り込まれペプチドまで分解される.処理されたペプチドは抗原提示細胞上に発現するMHCクラスII分子とともにT細胞レセプターに提示され,これによって抗原情報がT細胞へと伝達され,T細胞の活性化が起きる.このとき,T細胞レセプターはMHCと複合体を形成した線状のエピトープとしか反応しない.従って,T細胞エピトープは熱変性など一次構造に影響しない処理に対しては安定であるが,酵素処理のような一次構造を切断するような処理に対しては影響を受けやすい.一方,B細胞エピトープは,線状に並んだ一次構造から形成されるエピトープだけでなく,タンパク質の立体構造に依存したエピトープを形成する場合もある.従って,B細胞エピトープの場合,T細胞エピトープのように一次構造の変化を伴わない処理に対して影響を受け難いものもある一方,立体構造に依存するエピトープは加熱変性のように三次元構造に変化を引き起こす処理によっても容易に影響を受け,B細胞及び抗体から認識されなくなってしまう.卵一つとってみても,卵白中のオボムコイドは加熱処理に対して安定であるが,オボアルブミンは不安定であるなど,エピトープの構造の違いが調理などによるアレルゲン性の消長に影響を及ぼしている.ところで,花粉症や食物アレルギーなどのアレルギー患者の増加に伴い,その治療法も多くの研究の対象となっている.アレルギーの治療法としては,抗アレルギー剤,ステロイド等,種々の薬剤による対症療法が一般的である.また,少量の抗原をアレルギー患者に長期にわたり繰り返し投与する減感作療法は,花粉,動物,ダニ等の吸入性アレルギーの治療に長く使われてきた.しかし,現行の減感作療法はIgE結合部位を含む抗原を投与することからアレルギー症状を惹起する危険性も否定できない.そこで,ペプチド免疫療法など新たな治療の試みも検討されている.これは完全長のタンパク質分子を用いるのではなく,T細胞エピトープを含むペプチド断片を用いて行われるものである.これらのペプチド断片はアレルギー反応の惹起に必要なIgEの結合及びその架橋形成はできないが,T細胞の不応答を引き起こすとされている.実用化には至っていないが,花粉症のアレルギー症状の緩和を目指したスギ花粉症緩和米はこの現象を利用したものである.具体的には,遺伝子組換えの技術を利用し,スギ花粉症抗原タンパク質の中から7種の主要なT細胞エピトープを選び,これらを連結したエピトープペプチドをコメの胚乳部分に特異的かつ高度に蓄積させたものである1).その他にも,B細胞エピトープのアミノ酸を一つ置換したリコンビナントペプチドを用いた変異タンパク免疫療法も研究されている.T細胞活性化能を保持しながらもIgE結合能が減弱したアミノ酸置換リコンビナントをモデルマウスに投与した実験では,アナフィラキシー発症の頻度及び程度の軽減が認められている2).このようにエピトープの解明は非常に重要であるが,一部の主要アレルゲンを除き,多くのアレルゲンにおいてはエピトープの解明は十分ではない.今後のエピトープ解析の進展が強く望まれる.
- 2006-07-15
著者
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