臓器移植の倫理性 : 臓器を提供する意思の尊重という視点からの考察
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概要
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臓器移植は, 先天的または, 後天的に重大かつ治癒する可能性の少ない臓器障害を抱えた人々にとって, 欠かすことのできない治療法の一つとなった. 移植医療の発展に合わせて各国の臓器移植に関する法規制は次第に整備されつつある. 本邦においては, 2009年7月17日に臓器移植法の一部を改正する法律が公布され, 改正法の一部 (親族への優先摘出の要件, 臓器摘出に係る規定) が2010年1月17日に施行された. 更に, 同年の7月17日に臓器摘出の要件, 臓器摘出に係る脳死判定の要件, 小児の取り扱い, 被虐待児への対応, 普及・啓発活動等に関する改正法が施行された. 改正臓器移植法に基づき, 2010年9月11日現在, 国内95例目の脳死臓器移植が実施されるに至った. 改正臓器移植法に基づく脳死移植の実施例が増加の只中にある現在において, 臓器移植の成立条件を通じ, 常にその許容性を見直していく必要がある. 本稿においては, 成立条件の類型の中から自己決定の原理に基づく臓器移植における意思決定の問題に視点を当てて考察を展開した. 臓器移植は, 臓器の提供をしたいという第三者の提供者の存在がなければ成立しない医療技術であり, そこには提供者自身の自由意思の介在が必要である. 改正臓器移植法では, 「本人の書面による臓器提供の意思表示があった場合であって, 遺族がこれを拒まないとき又は遺族がいないとき, 又は, 本人の臓器提供の意思が不明の場合であって, 遺族がこれを書面により承諾するとき」と改正され, 「拡大された承諾意思表示方式」の採用となった. 本人の意思表示の原則を覆すことなく尊重するとなれば, 本人の臓器提供の意思が不明の事態を極力避け, 脳死体からの臓器提供に拒否をする者はそれをあらかじめ表示しておく義務が生じてきたといえよう. たとえ脳死体になっても本人の意思を等閑視されることなく自らの臓器提供の意思を堅持するためには, 生前から家族との話し合いを持ち, 臓器提供の拒否, 或いは臓器提供への積極的な意思を家族に伝え, 同意をとる, つまりは親族内で臓器提供の意思について合意形成を図る努力が必要となる. または, 遺族等の死体所有権の存在を前提とするならば, 臓器提供に関する提供意思が固まっていない状況時には, 祭紀主宰者たる遺族の中での意思決定者を指定しておくことも, 間接的ではあるが自己の意思を実現できる方策だと考えられる.
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