ヒト血液中ダイオキシン類の抽出・精製法の改良および油症息者血液中ダイオキシン類濃度
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概要
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1968年,九州北部を中心に西日本一帯で発生したカネミ油症事件は,国内最大の食品公害事件である.油症はpolychlorinatedbiphenyls(PCBs),polychlorinateddibenzofurans(PCDFs)およびpolychlorinateddibenzo-p-dioxins(PCDDs)等が混入したライスオイルを摂取したことにより生じた.この症状は,これら化合物の残留性が極めて高いために,当初の予想を超えて,従来の医学的治療法で処置することが非常に困難であることが,やがて明らかになった.油症が発症してから30年以上が過ぎ,多くの患者で初期に見られたような特徴的な所見がほとんど消失している.しかしながら,患者は,今でもいくつかの自覚症状に悩まされている.近年,塩素系炭化水素による環境汚染が懸念され,地球的な規模で生態系を脅かしている事実が明らかになってきている.それゆえ,油症研究は,この病気の被害者のためにも,またPCDDs,PCDFs及びCo-PCBsによる暴露を受けている一般の人々にも重要である.油症に関する広範囲な研究が油症研究グループにより行われてきた.我々は,油症患者のダイオキシン類による人体汚染とその健康影響を把握する目的で,血液中PCDDs,PCDFsおよびCo-PCBs濃度の追跡調査を行って来た.一般に,血液試料から正確にPCDDs,PCDFs及びCo-PCBs濃度を測定するのに,血液20-50m1必要である.しかしながら,患者の大部分は60歳以上の高齢者なので血液の採血量は制限される.したがって,患者の身体的負担を軽減させるため,5g程度の血液量でPCDDs,PCDFs及びCo-PCBs濃度を正確に評価できる超高感度分析法の開発が必要である.加えて,現在汎用されている抽出・精製法は,操作が煩雑で測定に至るまでに長時間を要し,迅速な対応ができないという問題があった.近年,5gの血液量でダイオキシン類濃度を正確に評価できる超高感度分析法および血液試料の前処理(抽出・精製)法を迅速化する方法について検討を行った.この方法は3つのステップから構成される,高速溶媒抽出装置(acceleratedsolventextractor,ASE)による血液試料から脂肪の抽出;従来法の1/4スケールでのカラムクリーンアップ操作;大量注入装置(solvent-cutlargevolumeinjectionsystem,SCLV)を装備した高分解能ガスクロマトグラフ/高分解能質量分析法(high-resolutiongaschromatography/high-resolutionmassspectrometry,HRGC/HRMS)によるPCDDs,PCDFs及びCo-PCBs類の超高感度分析である.大量注入装置の装備によりHRGC/HRMSの相対感度は10倍以上向上した.その結果,5gの血液量でもPCDDs,PCDFs及びCo-PCBs濃度の測定が可能となった.この方法を用いて,2001年に福岡県在住の油症患者78名から採取した血液中PCDDs,PCDFs及びCo-PCBs濃度を測定した.今回,新しい油症診断基準を策定するために,平成14年度から3年計画で全国油症患者血液中ダイオキシン濃度の追跡調査を含めた研究事業が立ち上げられた.初年度は,約400人の患者血液中ダイオキシン類濃度を測定計画予定で,一昨年度報告した方法よりも,高い再現性で短時間の間に多数のサンプルを効率的に処理する方法が必要であった.このため血液試料の前処理段階で費やす時間を大幅に短縮するために,以前報告した方法を一部改良した.この方法を用いて,平成14および15年度に,それぞれ279名および269名の油症患者から採取した血液中のダイオキシン類濃度を測定し,以前測定した一般健常人(52名)の結果と比較した.
- 2005-05-25
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