メルヴィルの『ヴァイオリン弾き』について
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概要
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ハーマン・メルヴィル(1819-91)は、『ピエール、曖昧なるもの』(Pierre, or The Ambiguities, 1852)を出版した後に、初めて短編の創作に取り組んだ。これらの短編では、これまでの作品とは異なって、真理探究という問題はもはや直接的には扱われていない。これらの短編では、新たな手法が導入され、真理探究という問題は作者の問題としてではなく、読者の側の問題としてその探究を求めるという形態になっている。『ピエール、曖昧なるもの』後に導入された新たな手法は、周到な意図のもとに、主人公を沈黙の仮面同然の存在とし、主人公や他の登場人物の実体探究を読者に迫るというものである。その結果、これらの短編はある種のミステリーを伴った曖昧性を帯び、読者の作品解釈も限定された、あるいは多様なものとなる。この新たな創作手法は、『ピエール、曖昧なるもの』で明示されたメルヴィルの最後的な真理認識に基づくものであり、また結果的には、『ピエール、曖昧なるもの』の酷評に対する皮肉な応え方ともなっている。というのも、このような新たな手法を具えた作品について十分な理解を得ようとする試みは、沈黙から声を得ようとする試みに似ていないこともないからである。『ヴァイオリン弾き』(The Fiddler, 1854)もこのような作品の一つであり、その持つ特徴と作品解釈について検討してみたい。
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奈良大学 | 論文
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