自己形成における宗教の意義
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概要
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自己形成が教育においてしめる位置については,奈良大学紀要第9号において解明したが,その際,自己形成の目的との関係であらわれてくる宗教の問題に充分触れることができなかった.そこで,本論稿においては,自己形成における宗教の意義を教育学的観点から解明したいと思う.この場合,宗教とは,宗派宗教という意味ではなく,人間の有限性という,いわば人間の本性に基づいてあらわれてくる宗教のことであり,自己形成を問題にする時,必然的に考察しなければならない要素であると考えられる.また,この問題はシュライエルマッハー (Friedrich Ernst Daniel Schleiermacher, 1768-1834) の思想の根底を貫くものである.いわゆる宗教観に基づく教育哲学の問題なのである.高坂正顕氏も「彼の思想の出発点をなすものは宗教であり,その帰着点を示すのも宗教である.」として,シュライエルマッハーの思想の根源は宗教思想であることを言明している.さらに,その宗教が人間の本性に基づくものであるとは「宗教において,無限のものが個々の人格にまで形成され,形をとるということが存在する」ことであり,宗教が人間存在の有限性に対応する形であらわれることをシュライエルマッハーは最も重視していたのである.また, ディルタイ (Wilhelm Dilthey, 1833-1911) も,シュラィエルマッハーの体系的な思想構造を次のように叙述している.「彼は哲学的世界観に対して,キリスト教的宗教性の価値を決めている.」と.つまり,シュライエルマッハーにおいては,その思想の基本構造が哲学的でしかも宗教的なのであり,それはまさに人間存在の本質を解きあかそうとする態度が明らかにあらわれているからであると考えられる.以上の理由で,シュライエルマッハーの思想に基づいて,自己形成における宗教の意義について考察を加えたいと思う.
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