政治と感受性: Under Western Eyes の 考察
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概要
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コンラッド(Joseph Conrad 1857-1924)はその創作活動の中期に近代の政治(特に革命運動)に関連した背景をもつ長篇小説を3篇轡いている.これは彼の初期から近代西欧文明と人間というテーマを追求してきた彼にとって自然のことであろう.何故ならば,宗教にも比すべきビジョンを求めて人間を掘りさげて描く芸術と相対し,またそれと並んで,あらゆる人間文化を統合的に整え人間の理想へと近づけようとする政治は(それが社会の現実面をとり扱うため足どりの重さはあるが),芸術とともに諸々の人間の営みの中で特に英知を必要とする,そして恐らく永遠に不可能の不安をひそませながら一刻の猫予もならない人間行為の双壁といえるからである.いやそれのみならず,政治は本質的に社会の中にこそ生きる人間にとって不可欠のものであり,またそれ以上にいままでの歴史上にみられる政治活動特有の恐るべき現実主義とそれと密接に結びついて一つの体制または社会の惰性的エネルギーへの固執やそれへの反対思想活動の偏見とも見まがう自己の立場の信奉などから,政治はあらゆる人間のまきこまれぎるを得ないある意味で暴力的な環境を形成さえするのである.古来幾多の文学者,思想家が各自の理想社会(国家)を考えたことであろう.絵画の方でもピカソやゴヤのある時期の作品のようには直接的ではないにしても,人間の政治的理念にねざした作品,多くはその崩壊への恐れを描いたものは数知れない.特に現代の政治背景は,地方的・一倒家的なそれよりも,近代西欧文明(われわれ現代の人間は世界的にその潮流にまきこまれ,また少くとも大きく影響されている)の運命ーひいては人類の運命ーという巨視的な捉え方になっていることは当然ながら芸術家,思想家に政治的感覚もしくは認識を不可欠のものとしているといえよう.歴史上古くは,宗教と政治は… つであった.それほど社会という場で生きる人間にとって,人間の本性・本質を問う宗教的態度(原罪とか業といったとらえ方をされ,また永遠の謎的複雑性をもつ人間存在に関わる)と政治は分けることのできないものである.宗教と並んで人間や自然の本質を(宗教とは違った方法でではあるが)視ようとする芸術が,特に現代において人間存在とその環境に巨大な力をのしかからせる政治に表面上はともあれ根本的に関心を強いられるのは当然といえよう.
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奈良大学 | 論文
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