シリア、デデリエ洞窟の先史人類学的発掘-2009年度調査報告
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概要
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2009年度のシリア、デデリエ洞窟における先史人類学的調査成果について報告し、あわせて今後の研究の展望を述べる。デデリエはシリア北西部、死海地溝帯北端に位置する西アジア最大級の旧石器時代洞窟である。前期旧石器時代末から終末期旧石器時代にいたる30万年以上の人類居住層を包蔵している。2009年度は洞口部、洞奥部で発掘をおこない、それぞれ前期旧石器時代末、中期旧石器時代後半の地層に残る先史人類の活動痕跡を調査した。洞口部ではJ27区、K22/23区をそれぞれ地表下約7m、6mまで掘り下げた。いずれにおいても基盤岩が一部で露出し、当洞窟居住史の起点に近づくことができた。認定し得た最古期の文化層で最も顕著なのは前期旧石器時代末ヤブルディアンであった。より堆積状況の良好なK22/23区では前期ムステリアンと基盤岩の間に当該文化層が挟まれて検出された。数少ない層位的出土事例の一つであり、いまだ不明の点が多い前期旧石器時代末に生じた複雑な文化継起を先史学的に議論する好材料となる。一方、洞奥部では中期旧石器時代、ムステリアン後期のネアンデルタール人生活面を詳細に記録する作業を実施した。結果は、当洞窟に彼らの居住痕跡が保存よく残存していることを示した。石器、動物化石、炉跡などの空間配置を分析することでネアンデルタール人の生活構造、社会体制の考察が可能であろうとの見通しが得られた。This article reports preliminary results of the 2009 season’s prehistoric and palaeo-anthropological excavations at the Dederiyeh Cave, northwest of Syria. The excavations of the entrance area of the cave were carried out as two deep sounding pits with a depth of 6 - 7m, resulting in the exposure of bedrock in parts. The important discovery was the Yabrudian assemblages of the final Lower Palaeolithic. Situated below the Early Levantine Mousterian layer and on the bedrock, this secure stratigraphic context helps defining the precise techno-typological characteristics of the Yabrudian lithic industry in the northern Levant. Fieldwork was conducted in an area at the end of the cave as well, where a large chimney is open to the sky. The squares excavated in 1989 - 2001 were widely re-opened in order to investigate the remaining deposits of the Late Levantine Mousterian period. The detailed research of the exposed living floors will be a major target of the next seasons.
- 2010-07-29
著者
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米田 穣
東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻人類進化システム分野
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米田 穣
独立行政法人国立環境研究所
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米田 穣
国立環境研
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米田 穣
東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻
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