月の誘惑--『失われた時を求めて』における月の働き
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概要
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プルーストの『失われた時を求めて』にはしばしば月が出てくる。「就寝劇」、バルベック・グランド・ホテルのアルベルチーヌの部屋、ジュピアンの男娼窟、タンソンヴィルでの散歩等、印象的な場面には月光が差し込んでいる。ではそうした月の働きとは何か。 視覚的に見ると、月は事物の静止化、拡大化、非物質化等の特性を持っていて、それにより外界に何らかの変容をもたらしている。そしてその変容は、当然ながら精神にも及んでくる。特にこの作品の月は、官能性と結びつく。但しこの月の特徴は、官能を高めるのではなく、程良く快楽に浸れる程度に官能を鎮める働きをしているところにある。 月は作品構造、芸術論に絡んでも言及される。作品を構造的に支えている、コンブレーとタンソンヴィルでの散歩、スワン家とゲルマント家、それらにおいても月は重要な役割を担い、セヴィニェ夫人をめぐる芸術論の中でも月は巧妙に取り入れられている。 『失われた時を求めて』におけるこうした月は、単なる演出ではなく、記憶によって強制された、取り替えのきかない素材であったといえる。
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奈良大学 | 論文
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