小麦の春季凍害の一事例
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概要
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(1)本調査は昭和33年3月29~31日の3日間にわたり,最低-3.8℃(31日)に及ぶ0℃以下の当時としては異常な低温に数時間ずつ遭遇したことによつて,早播の小麦農林52号に収量半減に及ぶ甚大な被害を蒙つたが,この被害様相につき調査を行つた.(2)凍死幼穂の長さは2cm以下のものが約76%の過半を占め,そのうち数mm内外から1cm以下のものが42%を占めた.(3)この凍害による芯枯茎では,その茎の基部の葉鞘を取除いて伸長節間を調べると,地表面に現われた最初の節間に凍害の表徴が現われる.その表徴の甚しいものは,この1節間のみが黒褐色に変じて枯凋し,軽度のものは変色はしないがチリメン状のしわを生じて萎凋している.(4)凍害を受けて変色枯凋した被害の甚しい節間部は,その表皮下の同化組織は自滅して空腔となり,厚膜組織が褐変萎凋し,被害軽度のものは組織の変色は見られないが被害状況は同様である.ただし維管束には異常がみられず,養水分の通導にはほとんど支障が認められないことは,色素液を自由に通導することによつて判明した.この事実は芯枯茎の枯死への移行がきわめて緩慢であることの理由となり,また幼穂が凍死を免れている場合は,節間に甚しい凍害を受けていてもその上部の節間は伸長し,正常な穂が出穂してくる理由となる.(5)健全茎では下位の節間長に比してその直上の節間長が長いが,芯枯茎では被害節間長に対してその直上の節間部は必ず短縮している.これは凍害をうけても被害節間部より上の節に移つていた生長点の機能が残存したため,一方養水分の通導は阻害されないので,緩慢かつ不完全ながら順次伸長してこのような様相を示したものと考えられる.(6)芯枯によつて生育体系が攪乱せられ,無効分けつの有効化,分けつの遅発が続き,芯枯茎を含む総茎数はむしろ増したが,稈長,穂長,穂重に大幅な変異を生じ,出穂期,成熟期の明確な判定を下せないような生育様相を示した.(7)この事例では収量は半減,千粒重の低下,品質悪化の損害をもたらした。
- 岡山大学農学部の論文
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