シラベ,コメツガの生態学的特性に関する研究1 : 富士山亜高山帯林のギャップにみられる稚樹の動態
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概要
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本州中部の亜高山帯林の主体をなすシラベとコメツガ両種の生態的関係については,耐陰性や遷移などの点でまだ解明すべき多くの問題が残されている。富士山の亜高山帯のコメツガ林では,大径木の枯死,倒伏によって生じた林冠の欠けた部分いわゆるギャップ内に,シラベとコメツガの稚樹が密生する状態が観察される。本研究は,このようなギャップ及びその周辺における光環境とそこに生育するこれらの稚樹の生育状況を調べ,それによって両者の生態的関係及び種特性の違いについて解明を試みたものである。林冠が空いてまだ間もないギャップでは,稚樹密度は高いが基底面積は低い。このようなギャップにおいてはシラベ,コメツガともに光条件の良いギャップの中央附近で旺盛な稚樹の生育がみられる。一方,より古いギャップと思われる所の稚樹群落においては,シラベの優占度がギャップの中央附近でますます高まる状況を示すのに対し,コメツガはやや暗いギャップと林内の境界附近で生育するようになる傾向が認められた。シラベ,コメツガ稚樹の主幹の当年伸長量と相対照度との関係をみたところ,シラベでは相対照度が約8%以上になると急に伸長が良くなる傾向がみられたが,コメツガでは相対照度の増加に反応したこのような著しい伸長量の変化はみられなかった。しかし,コメツガは,ギャップの相対照度が15%以上の所での伸長量はシラベに劣るものの,それ以下の相対照度で,やや周囲の林冠から庇陰されるような所ではむしろシラベを上回る伸長量を示した。この傾向はさらに,ギャップ中央附近,ギャップと林内の境界部そして林内と,三つの異なる個所から抽出されたシラベ,コメツガ稚樹それぞれの過去10年間の伸長経過の比較からも確められ,全体的にシラベは陽樹的,コメツガは陰樹的な傾向をもつことが明らかにされた。Differences in ecological character between Abies veitchii and Tsuga diversifolia and competitive interaction of them in the course of succession were studied through the investigation of the gaps and their surroundings in subalpine forests dominated by this hemlock on Mt. Fuji. These gaps are usually caused by the death or fall of big hemlock trees, and saplings of both species are dominant there after the formation of gaps. Four gaps were chosen for this investigation in different places. A belt 5m wide was settled for every gap running from its center toward the adjacent forest stands on both sides, and the patterns of growth of saplings of both species were examined and compared in the gap. Furthermore, the relative light intensity at the crown-tops of sapings was measured at sixteen different spots in one of the belts. In the youngest gap characterized by high sapling density and low basal area, the saplings of both species were higher, as their standing points were closer to the center of gap and the light intensity increased. In the other gaps regarded as more developed, the saplings of fir showed likewise best growth around the centers of the gaps. On the other hand, these of the hemlock did best at the margins where they could exceed fir saplings in growth under the shade influence of canopy of the surrounding forest stands. This reversion of height growth between the fir and hemlock was recognized at the relative light intensity of about 15%.
- 東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林,The Tokyo University Forests,東京大学農学部林学科,茨城県立下館第二高等学校,Department of Forestry, Faculty of Agriculture, University of Tokyo.,Shimodate Secondary High School, Ibaragi Prefecture.の論文
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