シラベ、コメツガの生態学的特性に関する研究2 富士山コメツガ林のコケ型林床における実生の分布
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概要
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富士山亜高山帯のうっ閉したコメツガ林において,シラベとコメツガの実生,稚樹の生育及び分布の状態を,基質条件や林床コケ群落と関連づけながら調べ,実生の発生,定着段階における両種の生態的特性の比較をおこなった。コメツガの優占する林分にもかかわらず,林床での実生,稚樹の量はシラベの方が多く,その個体密度はコメツガの7倍以上であった。しかし,両種ともに高さ10cm以下の個体がほとんどで,それ以上のものはコメツガで22.1%,シラベでは6.5%にすぎなかった。シラベの実生,稚樹の発生は基質条件にはあまり影響されないが,コメツガの発生は倒木上や裸地土壌上に集中する傾向がみられた。しかし,両種とも裸地土壌上でみられた個体は小さなものが多く,高さ10cm以上に達するものはほとんどなかった。コメツガ林の林床から,優占種によって三つのコケ群落が類別された。比較的新しい倒木上には,ミヤマクサゴケ群落とキヒシャクゴケ群落がみられ,材の腐れが進んだ古い倒木上及び地表の腐植上にはイワダレゴケ・タチハイゴケの群落がみられた。コメツガの実生,稚樹の個体密度は,ミヤマクサゴケ群落とキヒシャクゴケ群落で高く,イワダレゴケ・タチハイゴケ群落ではきわめて低かった。シラベでは,コメツガほどの差はないものの,むしろイワダレゴケ・タチハイゴケ群落でやや密度が高くなる傾向がみられた。本州中部のコメツガ林は,一般にコケ型林床を伴うことが多く,特にイワダレゴケ・タチハイゴケの優占するコケ群落が広い面積を占めている。富士山コメツガ林のイワダレゴケ・タチハイゴケ群落においては,コメツガよりもむしろシラベの実生,稚樹の方が多かった。つまり,コメツガ林の林床においてですら,実生バンクないし前生稚樹の量はシラベの方が豊かであるといえる。このことは,コメツガ林の林冠ギャップに,シラベの優占するパッチができるという事実(前報)を支える大きな要因の一つと考えられた。The distribution and growth of seedlings of fir (Abies veitchii) and hemlock (Tsuga diversifolia) were examined on the forest floor dominated by various bryophyte communities in closed hemlock stands on Mt. Fuji. The density of young fir plants on the forest floor was more than seven times that of hemlock. In both species, most of the plants were shorter than 10cm, and plants taller than 10cm were 6.5% for fir and 22.1% for hemlock. Growth of the majorty of young hemlock plants was restricted to decaying logs and bare soil, while no clear relationship between the occurrence of young fir plants and the sorts of substrates was found. The plants taller than 10cm of both species were scarcely found on the bare soil. Three kinds of bryophyte communities, characterized by one or two dominant species, were recognized on the forest floor. The Heterophyllium foliolatum community and the Scapania bolanderi community only occurred on decaying logs, while the Hylocomium splendens and Pleurozium schreberi community occupied the surface of both ground (humus and soil) and decaying logs. The density of young hemlock plants was much higher in the Heterophyllium and the Scapania communities than in the Hylocomium and Pleurozium community. That of young fir plants, on the other hand, became slightly higher in the Hylocomium and Pleurozium community than in the others. It is widely known that the density of seedlings and saplings of fir is higher than that of hemlock even in the forests dominated by hemlock in Japan. The undergrowth of these forests is usually dominated by moss communities mainly consisting of Hylocomium splendens and Pleurozium schreberi. In the same sort of undergrowth on Mt. Fuji, seedlings of fir were more successfully established than those of hemlock. This fact seems to well explain the phenomenon, demonstrated in the previous paper, that the gaps formed in hemlock forests are occupied by young fir plants.
- 東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林,The Tokyo University Forests,東京大学農学部林学科,茨城県立下館第二高等学校,Department of Forestry, Faculty of Agriculture, University of Tokyo,Shimodate Second High School, Ibaraki Prefectureの論文
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