屋久島で発見された新種キノボリヒメツガゴケ(ホソバツガゴケ科,蘚類)
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概要
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九州大学の矢原徹一博士を代表者としたヤクシカによる植物への食害影響調査が2004年から3年計画で実施されている.希少植物の分布状況と今後の動態を把握するために,屋久島全島の登山路(歩道と呼ばれている)に沿ってライントランセクトを設置し,500mごとに100m×4mの調査区間を設け,着生植物を含めそこに生育する植物をもれなくリストアップするとともに,それぞれが受けている食害の程度を調べるものである.この調査の一部として,屋久島に生息する蘚苔類植物相調査が同時に行われている.これによりこれまで見逃されてきた種の発見,あるいは絶滅危惧種についてのより正確な分布状況が判明すると期待される.この調査の過程でツガゴケ属の新種となるキノボリヒメツガゴケ(新称)を発見したので報告する.同じ植物が2000年に屋久島で調査を行った広島大学の出口博則博士によって採集されていることがわかったので,その標本も合わせて検討を行った.本種は高盤岳の南東にのびる支尾根上の,淀川にかかる橋から500mほど上った針葉樹を交える山地林内のヤマグルマとモミの大木の株元あるいは樹幹に生育している.渓流沿いの湿った場所で見つかることの多いツガゴケ属としては風変わりな生態的特徴を有しており,これまで屋久島から知られていたツガゴケ,ヤクシマツガゴケ,マルバツガゴケのいずれとも生育環境が異なっている.また,植物体がきわめて小型であること,葉先が丸くときに内曲してくぼむことなどの形態から判断すると,東南アジアから知られているDistichophyllum catinifolium J. Froehl.にもっとも近縁であるが,本新種では葉が倒卵形からサジ状楕円形であること,中肋が太く上部で枝分かれすること,葉先に微突起を有することで異なっている.植物体が小型で浅緑色の背の低い群落をつくること,乾燥すると葉縁が波打つように縮れるために植物体が扁平にならないことなどの点では,屋久島にごく普通に分布するツガゴケに見かけが酷似する.しかし,ツガゴケの葉先は鋭尖頭であり,決まって渓谷沿いのやや薄暗い場所にある湿った土や岩の上にのみ見つかることで本種と区別することができる.2004年7月と10月の現地調査では,確認できた2つの群落のいずれにおいても生殖器官や胞子体は見いだせなかった.本種は葉腋に5〜8細胞からなる糸状の無性芽をつけるが,これが繁殖の主な手段ではないかと考えられる.キノボリヒメツガゴケが新たに報告されたことで,分布が確認されている既知の日本産ツガゴケ属は合計6種となり,それらを区別するための検索表を提示した.
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