長崎県水稲葉枯症 : 水稲への窒素負荷と葉枯障害との関係
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概要
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長崎県北部中山間地帯で発生する水稲葉枯症と水稲に吸収される窒素の問題に焦点を当て,発症地域と非発症地域における水田土壌や稲体の窒素含有量,水田内外の大気中アンモニア濃度の比較,健全葉と発症葉の窒素含有量およびδ^<15>N値の比較などを通して,現地水稲葉の大気中窒素成分の取り込みや窒素放出の可能性ならびに葉枯障害との関わりについて考察を行った.水田土壌および稲体の窒素分析の結果,発症地域は非発症地域に比べて土壌窒素供給力が高く,稲体中の窒素含有量も多い傾向が示された.また,葉枯の初期症状が出る最高分けつ期から幼穂形成期にかけて,発症葉の窒素含有量は健全葉より高く,δ^<15>N値は逆に低い傾向を示した.この時期には例年高濃度の硝酸イオンやアンモニウムイオンを含む霧が発生することから,発症葉では霧水に含まれるδ^<15>N値の低いこれら窒素成分,あるいは,やはりδ^<15>N値が極めて低い近隣の畜舎由来のアンモニアガスを大気から取り込んでおり,葉枯症発生地域における大気からの高濃度窒素の負荷の可能性が示された.一方,発症が激しくなる登熟期になると,発症葉のδ^<15>N値は健全葉を上回り,水田内外のアンモニアガスの測定結果からも,発症の著しい水田では稲体からの激しいアンモニアの放出が示唆された.葉からのアンモニア放出速度は蒸散速度と相関することから,発症株におけるアンモニアの多量放出の現象は,強い乾燥ストレスに伴う葉枯症状の加速化と密接に関係していることが示された.以上,水稲の葉枯症は,葉身部への窒素の負荷によって気孔の開口頻度が著しく上昇するため,山から吹き降ろされる乾燥風や台風などの影響を受けやすく,蒸散過多が原因となって生じるものと考えられる.霧水中に含まれる高濃度のアンモニウムイオンや硝酸イオンあるいは畜舎から発生するアンモニアは,局地的に吹く高温乾燥風と併せて,この地域の水稲に葉枯症状をもたらす重要な要因と推定した.
- 一般社団法人日本土壌肥料学会の論文
- 2012-12-05
著者
-
田中 福代
中央農業総合研究センター
-
大脇 良成
中央農業総合研究センター
-
大脇 良成
中央農業総合研究セ
-
澤田 寛子
中央農業総合研究センター
-
藤原 伸介
中央農業総合研究セ
-
渡邊 太治
長崎県農林開発技術センター
-
藤山 正史
長崎県農林技術開発センター
-
渡邉 大治
長崎県農林技術開発センター
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