福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の大気中の挙動
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
平成23年3月11日の東日本大震災によって発生した,東京電力福島第一原子力発電所の事故によって,大量の放射性物質が大気中に放出された.放出された放射性物質は,福島県だけでなく,東北南部や関東地方を含む広い範囲で,土壌,水道水,牧草,農産物,畜産物,上下水道汚泥など様々な環境汚染を引き起こしている.また,将来的に,半減期の長い137Csなどによる長期の環境影響が懸念される.本稿では,これまでに公表された放射性物質の放出量や測定結果に係る各種資料,及び,大気シミュレーション結果に基づき,福島原発から放出された放射性物質の大気中の挙動に関する知見を整理する.福島原発から4月初めまでに大気中に放出された131Iと137Csの総量は,それぞれ1.5×1017Bqと1.5×1016Bq程度と推計され,特に3月15日午前中の2号機からの放出が多かったと考えられている.放射性物質の大気への放出によって,茨城県北部で測定された空間線量には3つの大きなピーク(3月15日,16日,21日のいずれも午前中)が認められる.これらのピークは,放射性プルームが北風によって南に運ばれたことと,このプルームが降水帯に遭遇して放射性物質が地表面に湿性沈着したことによって説明できる.また,筑波での測定結果は,放射性核種の構成比が時間的に大きく変化すること,131Iのほとんどはガス状であるが一部は微小粒子として存在しているのに対し放射性セシウム(134Csと137Cs)は数ミクロンの粒子として存在していることを示す.大気シミュレーションによって計算された131Iと137Csの沈着量の空間分布によると,放射性物質の影響は福島県以外に,宮城県や山形県,関東地方,中部地方東部など広域に及んでいる.また,時間的には,空間線量のピークが認められた3月15日〜16日と3月21日以降の数日の2期間で集中している.更に,3月に放出された131Iの35%,137Csの27%がモデル領域内に沈着したこと,131I沈着量のほとんどは乾性沈着したのに対して137Csは湿性沈着が支配的であること,放出された131Iと137Csのうち南東北と関東の1都10県に沈着した割合はどちらも13%程度であり,131Iは福島県,茨城県,栃木県,137Csは福島県,宮城県,群馬県,栃木県などで沈着量が多いことなどが示された.
- 2011-08-00
著者
-
田中 敦
独立行政法人 国立環境研究所
-
田中 敦
国立環境研究所
-
田中 敦
独立行政法人 国立環境研究所 化学環境研究領域
-
大原 利眞
独立行政法人国立環境研究所
-
森野 悠
独立行政法人国立環境研究所
-
大原 利眞
独立行政法人 国立環境研究所
関連論文
- 2007年5月8,9日に発生した広域的な光化学オゾン汚染 : オーバービュー
- C204 異なる手法を用いた東アジア対流圏オゾンの発生源別寄与推定の比較(物質循環・放射)
- 1B1018 光化学オキシダントと粒子状物質等の汚染特性解明に関する研究(5) : 近畿地方における光化学オキシダント移流への大阪湾海風の寄与について(1空間-4都市・地域,一般研究発表)
- 1J1348 2007年夏季関東における微小粒子広域観測とモデリング(5) : 夏期におけるサルフェートの濃度変動と冬期との比較(5物質-2粒子状物質,一般研究発表)
- 1B1104 光化学オキシダントと粒子状物質等の汚染特性解明に関する研究(8) : 九州地方における硫酸塩濃度との関係について(1空間-4都市・地域,一般研究発表)
- 1B1052 光化学オキシダントと粒子状物質等の汚染特性解明に関する研究(7) : 九州地方における2006年から2009年までの高濃度現象について(1空間-4都市・地域,一般研究発表)
- 2007年春季に発生した東アジア域スケールの広域的越境汚染の化学輸送モデルCMAQによる解析
- P131 化学輸送モデルCMAQを用いた沖縄県辺戸岬における越境大気汚染の解析 : 2008年春季のW-PASS集中観測をもとに
- RAMS/CMAQの連携システムによるアジア域の物質輸送シミュレーションシステムの構築
- 東アジアにおける炭素粒子動態のモデル解析
- P-05 新潟県佐渡島におけるオゾン濃度の垂直分布(ポスター発表(アカデミックプロムナード))
- P345 領域物質輸送モデルを用いたCentral East China域における大気汚染物質の変動解析
- 2C1104 2009年春季長崎福江島における高濃度オゾンの観測と二次粒子の動態(1空間-5東アジア,一般研究発表)
- 1C1006 中国華北地方におけるバイオマスバーニングによる大気質への影響(1空間-5東アジア,一般研究発表)
- 3A1116 大気エアロゾル中アンチモンの発生源解析(5物質-2粒子状物質,一般研究発表)
- 2C1116 福江島で観測された非メタン炭化水素組成の特徴と光化学反応履歴の考察(1空間-5東アジア,一般研究発表)
- 冬季・九州地域で観測された高濃度エピソードに対する中国メガシティの影響
- 1J1412 2007年夏季関東における微小粒子広域観測とモデリング(7) : 3次元モデルで計算される有機炭素収支(5物質-2粒子状物質,一般研究発表)
- P118 東アジア付近の対流圏カラムオゾン高濃度帯の成因と季節変化の原因に関する研究(ポスターセッション)
- 工場排出ガス中の昇華性を有するホウ素化合物測定法の比較
- 人工植物曝露装置を用いた1, 500℃で発生させたガス状ホウ素化合物による各種植物への影響
- 煙道内排出ガス採取法を用いた昇華性を有するホウ素化合物測定法の開発
- 2007年5月8-9日に発生した広域的な光化学オゾン汚染 : 観測データ解析
- ハウスダスト中元素濃度の変動要因
- 同位体比分析に基づく日本人小児の鉛曝露源解析
- 日本の住居の室内塵中鉛およびカドミウム--室外汚染源との関連
- 都内公園土壌中重金属濃度の相関関係
- 人工植物曝露装置を用いた大気中ホウ素化合物による各種野菜, 園芸植物及び樹木の黄化・褐変等の障害
- 人工植物曝露装置を用いた大気中ホウ素化合物によるゼラニウムの被害の検証
- 安定同位体比を指標としたホウ素汚染事例の解析
- ガス状ホウ素化合物による大気汚染について
- 学会員に役立つ魅力的な学会誌をめざして(あおぞら)
- 松山,大阪,つくばで観測した浮遊粉じん中金属元素濃度比による長距離輸送と地域汚染特性の解析
- 1J1054 大阪における大気エアロゾルの総合観測 : 粒径別金属元素濃度比の日内変動と季節変動(2)(5物質-2粒子状物質,一般研究発表)
- 中国におけるオゾンによる稲作影響の現状評価と将来予測(学生・若手研究者の論文特集)
- P407 東アジアにおける対流圏オゾン濃度の将来予測
- P346 2006年4月8日の黄砂をもたらした前線の空間構造と時間発展
- ガスクロマトグラフと加速器質量分析計の組み合わせ(GC-AMS)による個々の化合物の放射性炭素年代測定
- P140 地上/衛星搭載ライダーと化学物質輸送モデルにより示された東アジア域における球形エアロゾル分布の季節変動
- 2E0942 日本における硫黄沈着量の経年変動・年々変動に関するモデル解析(5物質-3酸性雨,一般研究発表)
- 2D1040 オゾン生成レジームの変化要因(2手法-1計測分析,一般研究発表)
- 2B1052 1992-2007年の光化学オキシダント広域高濃度事例の出現特性(1空間-4都市・地域,一般研究発表)
- 1B1140 光化学オキシダントと粒子状物質等の汚染特性解明に関する研究(11) : 常時監視データを用いたNO_2/NOx排出比の推定とその経年変化(1空間-4都市・地域,一般研究発表)
- 1B1128 光化学オキシダントと粒子状物質等の汚染特性解明に関する研究(10) : ポテンシャルオゾンを用いたOx濃度上昇傾向の評価(1空間-4都市・地域,一般研究発表)
- 1B1116 光化学オキシダントと粒子状物質等の汚染特性解明に関する研究(9) : 2009年5月8日・9日の九州・中四国地域における光化学オキシダント高濃度事例について(1空間-4都市・地域,一般研究発表)
- 1B1040 光化学オキシダントと粒子状物質等の汚染特性解明に関する研究(6) : 近年の島根県におけるO_3濃度およびSPM濃度の経年変動(1空間-4都市・地域,一般研究発表)
- 1B1006 光化学オキシダントと粒子状物質等の汚染特性解明に関する研究(4) : 関東甲信静地域におけるOx高濃度事例解析について(3)(1空間-4都市・地域,一般研究発表)
- 1B0954 光化学オキシダントと粒子状物質等の汚染特性解明に関する研究(3) : 関東甲信静地域におけるOx高濃度事例解析について(2)(1空間-4都市・地域,一般研究発表)
- 1H1730-2 モデル相互比較による、大気質予測モデルのPM2.5予測性能の評価 : 2007年夏季、関東の事例(領域大気シミュレーションモデルの相互比較に向けて,8.都市大気環境モデリング分科会,分科会)
- P140 日本の春季オゾン濃度年々変動に対する気象場の影響
- 1D1412 光化学オキシダントと粒子状物質等の汚染特性解明に関する研究(7) : ポテンシャルオゾンを用いた日本におけるオゾンの季節変化パターンの地域的な違いとその経年変化の解析(1空間-4都市・地域,一般研究発表)
- P344 3次元モデルを用いた都市大気におけるエアロゾルの動態に関する初期研究結果
- 3A0954 2007年夏季関東における微小粒子広域観測とモデリング(11) : 化学輸送モデルによる排出源寄与推計(5物質-2粒子状物質,一般研究発表)
- 1J1400 2007年夏季関東における微小粒子広域観測とモデリング(6) : リセプターモデルを用いたPM2.5発生源の割り当て(5物質-2粒子状物質,一般研究発表)
- 1H1130 地域大気モデリングシステム(RAMS)を用いた関東地域の気象シミュレーション
- 1J1300 2007年夏季関東における微小粒子広域観測とモデリング(1) : 観測概要(5物質-2粒子状物質,一般研究発表)
- 耐熱型煙道内排出ガス採取法によるガス状ホウ素化合物測定法の開発
- 立山(標高2,450m)における揮発性有機化合物(VOCs)測定について
- 1I1106 立山等における越境大気汚染物質のVOCs測定例(5物質-1ガス状物質,一般研究発表)
- 1I1118 耐熱型煙道内排出ガス採取法によるガス状ホウ素化合物測定法(5物質-1ガス状物質,一般研究発表)
- 摩周湖水中ニッケル及びバナジウム濃度の深度プロファイルと大気経由人為起源ニッケル及びバナジウム供給の可能性 (年間特集「水」 水環境と分析化学)
- 3B1312 煙道内排出ガス採取法による硫黄酸化物及びガス状ホウ素化合物の同時測定法の開発(5物質-1ガス状物質,一般研究発表)
- 2B1040 関東地方から新潟県への高濃度オゾン輸送の観測的研究(1空間-4都市・地域,一般研究発表)
- P-14 新潟県におけるオゾンの時間・空間分布のモデル解析(ポスター発表)
- P377 東アジア域におけるエアロゾル光学的厚さの経年変化に関する研究(ポスター・セッション)
- 1F1104 立山における揮発性有機化合物(VOCs)測定(5物質-5有害化学物質/6悪臭,一般研究発表)
- MODIS可視画像とSPM時間値で捉えた2006年4月8日の帯状黄砂(カラーページ)
- D352 東アジア付近の対流圏オゾン気柱量に見られる高濃度帯(E-TCO)の成因と季節変動の原因に関する研究(物質循環システム,口頭発表)
- 2C1040 OMI/NO_2による東アジアにおけるNO_x排出量の時間変動(1空間-5東アジア,一般研究発表)
- 1C0942 立山・室堂平における粒子体積濃度の年々変化 : 微細粒子濃度の冬春季増加傾向(1空間-5東アジア,一般研究発表)
- 1E1336 4次元変分法と衛星データによるデータ同化を利用した中国東部NO_x排出量の逆推計(2手法-5シミュレーション,一般研究発表)
- 1A1030 東アジアにおける春季オゾンの年々変動とその気象要因(1空間-5東アジア,一般研究発表)
- ネスト版RAMS/CMAQ連携モデルによる2007年5月8,9日に発生した広域的な光化学オゾン汚染の解析
- P323 化学輸送モデルを用いた東アジア域の光化学オゾンの経年変化と解析
- P122 4次元変分法によるデータ同化を利用した中国NO_x排出量の逆推計
- P-13 新潟県内におけるオゾンの生成に寄与する揮発性有機化合物の測定(ポスター発表)
- 1B0930 光化学オキシダントと粒子状物質等の汚染特性解明に関する研究(1) : 北日本地域におけるOx濃度の長期変動と高濃度出現状況について(1空間-4都市・地域,一般研究発表)
- 日本のSO_4^沈着量における経年変動のモデル解析
- A13. 岩石の化学風化における元素の溶出と表面層の化学組成変化 (第43回粘土科学討論会発表論文抄録)
- A13 岩石の化学風化における元素の溶出と表面層の化学組成変化
- 摩周湖水中ニッケル及びバナジウム濃度の深度プロファイルと大気経由人為起源ニッケル及びバナジウム供給の可能性
- 環境標準物質
- 水銀同位体生物地球化学
- 野生生物保護と環境汚染の監視 : 環境モニタリングと環境スペシメンバンク(傷病鳥獣救護と環境モニタリング,第12回日本野生動物医学会大会・岐阜大学21世紀COEプログラム国際シンポジウム)
- 国立環境研究所タンデム加速器の現状 (第10回タンデム加速器及びその周辺技術の研究会--1997年7月7日、8日 国立環境研究所大山記念ホール) -- (加速器の現状と将来計画(1))
- A12. 長石の化学風化の過程 : 硝酸水溶液との反応による元素溶出と表面組成変化 (第43回粘土科学討論会発表論文抄録)
- A12 長石の化学風化の過程 : 硝酸水溶液との反応による元素溶出と表面組成変化
- 降雪中の鉛同位体比と汚染の長距離輸送との関係
- 塩素安定同位体比による有機塩素化合物の環境動態
- 摩周湖水中ニッケル及びバナジウム濃度の深度プロファイルと大気経由人為起源ニッケル及びバナジウム供給の可能性
- P18 有機スズ化合物と粘土鉱物の相互作用
- P18.有機スズ化合物と粘土鉱物の相互作用(第35回粘土科学討論会発表論文抄録)
- 煙道内排出ガス採取法(1形)方式による硫黄酸化物及びガス状ホウ素化合物の同時採取
- 環境標準物質
- ガス状ホウ素化合物及び硫黄酸化物の1形方式による同時採取法
- 揮発性有機化合物(VOCs)の立山地域での実態
- 1F1600-1 筑波で観測された大気中の福島第一原子力発電所事故由来の放射性核種(環境大気モニタリングに関する最近の話題,6.環境大気モニタリング分科会)
- 福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の大気中の挙動
- 立山地域における揮発性有機化合物(VOCs)調査
- 2009〜2011年における立山地域での大気中揮発性有機化合物(VOCs)の調査