ゲノム安定性を司る紡錘体チェックポイント因子BUBR1の間期中心体における機能
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
ゲノムDNAは,電離放射線などの外的ストレスや代謝過程で生じる活性酸素などの内的ストレスに常に曝されている.細胞は多様なゲノムストレスに対してDNA損傷修復機構や細胞周期チェックポイントを高度に発達させることによりゲノム安定性を維持している.これらのゲノム安定性維持機構が先天的に破綻すると,高発がん性を示す一連のヒト遺伝病が発症することが知られている. 私たちは,ゲノム安定性維持機構の破綻による発がんの分子機構を解明する目的で,紡錘体チェックポイントの主要分子BUBR1が先天的に欠損して生じる染色分体早期解離(PCS)症候群の分子病理学的解析を行ってきた1),2),3).分裂期のBUBR1は,紡錘体微小管と動原体との異常な接着を感知してAPC/CCDC20活性を低下させることで紡錘体チェックポイントを作動させて,娘細胞における染色体の異数化を防ぐことが知られている4).しかし,間期のBUBR1の生理機能は不明な点が多い.これまでに,私たちは,BUBR1が間期中心体に局在して分裂期キナーゼであるPLK1の活性化を抑制して,中心体過剰複製を回避することにより中心体数の厳密な制御を担うことを明らかにした2).また,G0期においてBUBR1が細胞表面に1本の毛様に発達する微小管性の突起構造である一次繊毛形成に必要であることを見出した3).一次繊毛は力学的ストレスや細胞増殖因子などの細胞外情報を受容するセンサーとして機能しており,細胞分化制御や個体発生において重要な役割を果たす細胞小器官である5).BUBR1欠損による繊毛形成不全は,PCS症候群患者に認められる多発性腎嚢胞やDandy-Walker奇形(小脳低形成を伴う後頭蓋窩嚢胞)のような発生形態異常の発症の原因となる3).本研究では,繊毛形成過程において,PLK1とその基質のキネシンモーター分子KIF2Aが繊毛形成抑制因子としてBUBR1の下流で機能することを見出したので報告する.
- 2012-09-25
著者
関連論文
- Nijmegen症候群 (特集 小児疾患における臨床遺伝学の進歩) -- (日本人が発見に関わった疾患遺伝子)
- 一般演題 42 放射線感受性NBS細胞におけるATMキナーゼの活性化について
- 高発癌性遺伝病ナイミーヘン染色体不安定症候群の細胞株樹立と遺伝的相補性
- 宇宙放射線類似線源による細胞がん化と(ヒト-ハムスター)ハイブリッド細胞を用いた逆線量率効果の解析
- 遺伝性小頭症におけるDNA損傷シグナル経路の破綻
- ATRによるDNA損傷シグナルと疾患 (特集 DNAの損傷・修復と疾患)
- シンポジウム-3 放射線障害とゲノム安定化機構
- 放射線誘発突然変異の加重力による増感
- 陽子線トラックストラクチャーコードの開発と陽子線W値の計算
- ナイミーヘン染色体不安定症候群の相補性試験
- 分裂期チェックポイント分子BUBR1欠損による高発がん性と繊毛病 (第52回原子爆弾後障害研究会)
- ゲノム安定性を司る紡錘体チェックポイント因子BUBR1の間期中心体における機能