蕭紅の散文集『商市街』について
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概要
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1934年6月、蕭紅と蕭軍は、言論への弾圧が厳しさを増すハルビンを離れ、青島を経て上海へと逃れる。上海に逃れた後、蕭紅は、蕭軍と苦難を共にしたハルビンでの生活を振り返り、散文に書き留めた。それらの散文を集めたのが、散文集『商市街』である。作品を貫くひたむきで誠実な人間性と、情景を彷彿させる表現によって、出版当初から多くの読者を魅了してきた。『商市街』には、1932年10月初め「欧羅巴旅館」に投宿する場面から、1934年6月に商市街25号から出て行く場面までの、41篇の散文が収められている。二人の日常の何気ない情景をスケッチした散文が、時間経過の順に収録されているので、二人の足跡を知る上において貴重な資料となっている。『商市街』の分析を通して、蕭紅作品の背景にある蕭紅自身の個人的事情や、深刻な社会状況を考察する。同時に、執筆時の蕭紅の心理状態を解明し、『商市街』執筆の動機を探る。