『馬伯楽』論
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概要
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蕭紅が遺した長編小説『馬伯楽』は、1937年 7 月 7 日に勃発した日中戦争下の混乱した社会状況を背景に、主人公が青島から上海、上海から武漢へと避難する過程が描かれている。主人公の馬伯楽は青島の資産家の息子で、すでに妻と三人の子供がいるが、定職に就かず父親の家で気ままに暮らしている。小心者で一家の主としての気概も能力もない。父親や妻を守銭奴だと批判しながら、父親の経済力に依存して生きている無責任で身勝手な人物である。日中戦争さなか、民族統一戦線が叫ばれ、文芸界においても人民の戦闘意欲を高揚させる作品が求められた時代に、蕭紅は時代の潮流に挑むかのように、馬伯楽のような否定さるべき人物を描いた。蕭紅は馬伯楽の形象を通して、「人間的に不誠実ないい加減さ」を浮き彫りにし、国民性における問題点の所在を明らかにしようとしたのである。