蕭紅作品の形象と深層心理 : 「橋」を中心に
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概要
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蕭紅の作品集『橋』に収められている短編小説「橋」は、蕭紅作品の中でも極めてシンボリックな作品といわれるもので、乳母として雇われた貧しい母親の、道徳さえも捨てる原始的母性がありありと描き出されている。蕭紅は21歳のとき女児を出産して、その子を人手に渡すという辛い選択をした。その経緯を作品化したのが、蕭紅の第一作「棄児」である。「棄児」を通して「橋」を読むと、「橋」の中に「子捨て」の苦い体験の傷痕が見えてくる。蕭紅の潜在意識下には「捨てた」子への切ない思いが鬱積して、彼女を苛んでいたのである。その上、夫蕭軍との関係においても、それまでにも存在していた違和感が日増しに膨らんでいく。「橋」は、そうした心の底に淀んだ不安や恐怖や悔恨から自らを解放するために、蕭紅が来し方を総括し、来し方との訣別を図った作品である。またそうすることによって新たな一歩を踏み出すことができた象徴的作品といえるのである。