なわばりと共有思想 : 1890年代日本の内水面における水産資源の変動と環境間題(<特集>コモンズとしての森・川・海)
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概要
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日本の山野河海は、明治期以降の近代化のなかでさまざまな変化をとげてきた。なかでも、発展のための環境利用はかならずしも生活によい影響をもたらさなかったことが指摘され、開発の功罪が問われている。発展か保護かという二項対立的な発想による問題解決の方法をいかにして超えることができるだろうか。川が山と海をむすぶ生態学的な媒介となっている点に注目して、なわばりという観点から川の問題をとりあげ、近代の意義を考えた。近代化が開始された時期に、環境がどのようにみなされていたかを明らかにするため、資料として明治25(1892)年に農商務省により実施された『水産事項特別調査』の結果をとりあげ、そのなかの河川湖池における漁獲物の増減にかんする理由の記述内容を検討した。とくにサケとアユのような河川を溯上する魚類に着目した。漁獲の減少した要因には、鉱山開発や森林伐採、農業用の肥料である石灰の河川への流入、漁業者自体の増加などが大きな要因とされている。また漁獲の増加した要因には、人工孵化と漁具・漁法の制限や規制があげられている。増加ないし減少ではなく、漁獲が変動するわけについては、雨量、温度、出水の有無などの自然的な要因が関与するとみなされている。漁具・漁法の制限と養殖をもとにした資源の管理と増産をもくろむ発想は、現代にも通じる資源観といえる。しかし漁獲の減少を進歩に伴う害と位置づけた点は負の意味で注目しなければならない。すなわち、川を犠牲にし山と海を結ぶ生態系の役割を軽視する産業偏重の近代化がすすめられたことを意味するからである。
- 1997-09-20
著者
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