名声と流刑--オウィディウスの『トリスティア』とミルトン
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概要
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ミルトンがオウィディウスを生涯愛好したことは周知の事実である。オウィディウスは『転身物語』を不滅の名声への満々たる自信で締めくくっている。そのような名声こそ、青年ミルトンの生涯の野心であった。だが、突然の流刑のため辺境地で制作された『トリスティア』では、オウィディウスは称賛や名声の虚しさを説く。そして、目立たず、世に隠れて、"private"に、"obscure"に生きること、あるいはそのような状況で静かな名を確立することをローマの友人たちに勧告する。青年時代に『トリスティア』を基に作成したエレジー数編とは異なり、失明を境にミルトンは初めて『トリスティア』の内容を実感し、その後の詩作に反映させる。ミルトンの英詩の中で、"private"と言う語は『復楽園』に7回、『闘技者サムソン』に4回、そして『失楽園』には1度だけの登場である。したがって"private"という語が最もミルトンを引きつけたのは、『復楽園』制作のときである。さらに、『闘技者サムソン』においては否定的な意味で使用されるのに対し、『復楽園』のキリストには肯定的含蓄がある。特に、最終行"Home to his mother's house private returned"は謎めいている。キリストのアイデンティティがキリストにもサタンにも明白になる過程である『復楽園』の名声論はミルトンの名声観の結論であり、同時に、『闘技者サムソン』の制作年代への解明の一助ともなる。
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