「平成20年8月末豪雨」の天気系,特にメソ対流系の組織化について
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概要
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2008年8月26日から31日まで連日,日本本州のどこかで豪雨が起こるという異常な日が続き,21の地点で1時間降水量の記録が更新された.気象庁はこの期間の豪雨を「平成20年8月末豪雨」と命名した.本論文の目的は,この期間中,総観規模の気象状況はどうであったか,その環境場の中で記録破りの豪雨を起こしたメソ対流系はどんな型に組織化されていたかを,気象庁がルーチン的に得ている観測データと,予報モデルからの出力を解析して特定することである.その結果によると,この期間,上層の亜熱帯ジェット気流は蛇行して,日本の北東にはブロッキング現象に似た気圧パターンのリッジが居座り,その上流側には寒気を伴ったトラフが停滞した.下層では,東方洋上に北太平洋高気圧が,四国南方洋上に低気圧が停滞していたのに加えて,27N付近には上層寒冷低気圧も停滞して,本州には暖湿な南よりの風が吹き続いていた.これを水蒸気の分布で見ると,中層(500hPa)で等相対湿度線が密集する水蒸気前線が2本,ほぼ南北方向に並んで存在し,それに挟まれた本州は高相当温位の空気に覆われ,成層は不安定であった.豪雨の多くは,上空の水蒸気前線に沿って線状に組織されたメソ対流系(MCS)か,2本の上空水蒸気前線に挟まれた地帯でのバックビルディング(BB)型に組織されたMCSに伴って起こった.すなわち,地形や台風や中緯度低気圧に伴う前線など,強い強制力による深い対流ではなく,いずれも弱い強制力(forcing)の下で起こった豪雨であった.そして重要なことは,例えば上空水蒸気前線で発生したMCSが,やがて強いBB型のMCSに組織化されるというように,MCSは一生の間に型を変えることである.29日頃からは,上層の気圧パターンが変化し始め,日本海の本州側に沿って延びた上層の渦位のストリーマーが,その先端で次々と低気圧性の渦巻きを切離していき,その渦巻きに伴う豪雨もあった.最後に,観測データの解析からだけでは解明できなかったMCSの組織化のメカニズムについて,今後の課題を述べた.
- 2011-03-31
著者
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