渥美湾における冬季の赤潮の発生・消滅に伴う窒素収支
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概要
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一層ボックスモデルを適用して冬季の赤潮の発生・消滅に伴う渥美湾内(三河湾東部)の窒素収支を計算した.溶存態無機窒素(DIN)の負荷量合計14.4tN・d^<-1>のうち,底泥からの溶出が47%を占め,河川からのものがこれについで34%,降雨14%,下水によるものは5%であった.DINの内訳はアンモニア態窒素が約50%,硝酸態窒素が約30%,亜硝酸態窒素が約20%であった.アンモニア態および亜硝酸態窒素の主要な負荷源は底泥からの溶出であり,一方,硝酸態窒素の負荷源としては河川が圧倒的であった.観測期間中はSkeletonema costatumおよびEucampia zodiacusの全湾規模の赤潮に遭遇し,それらの盛期にはそれぞれ31.0tN・d^<-1>,20.7tN・d<-1>の速度でPONの生産(光合成)が行われている計算になった.また,期間中のPON生産量を炭素量に換算すると0.2〜1.4gC・m^<-2>・d^<-1>となった.赤潮の発生に伴い,利用される無機窒素の形態がアンモニアから硝酸へ移行することが今回の観測でとらえられた.これは近年,明らかとなってきた植物プランクトンによる窒素取り込みの選択性を連続したフィールド観測でとらえた例として興味深い.内湾生態系内の物質循環を計算するためにはサンプリング間隔を短くすることで目まぐるしく変わる植物プランクトン相の遷移をとらえることが重要であることを示した好例である.S.costatumの赤潮は栄養塩濃度の低下によって成長を抑制されたが,さらにその消滅はアンモニア態窒素の増加を伴って短期間で起こっていたことから,動物プランクトンの摂食による結果として説明された.PONの沈降量および堆積量は生産量に比例し,期間の平均では生産量(8.5tN・d^<-1>)の約90%が沈降するが,堆積するのはそのうちの約10%であり,残りの90%は再び水柱へ回帰する計算になった.負荷については,底泥からの溶出によるものと陸起源その他によるものの供給が半々であり,このうち半分が植物プランクトンにより利用され,ついで分解され,残りの半分が湾外へ流出する.このことは,渥美湾の富栄養化を防止するためには,陸域からの負荷量を削減するとともに底泥からの溶出を抑制しなければならないことの重要性を示している.
- 日本海洋学会の論文
- 1992-08-29
著者
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