マネジメント・アプローチによるセグメント情報の有用性
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概要
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2008 年3 月(2009 年3 月に最終改正)に企業会計基準第17 号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」(以下、新会計基準という)が公表され、我が国においても国際的会計基準、米国基準と同様、マネジメント・アプローチによるセグメント情報が、2011 年3 月期より開示されることになった。新会計基準は、近年の情報提供機能の向上を目的とした会計基準の設定と、国際的コンバージェンスを背景に、財務諸表利用者が、将来キャシュ・フローを適切に評価できるよう有用な情報を提供するという基本原則の下、従来の産業セグメント情報は、企業の状況を適切に反映した情報開示がなされておらず、利用者の情報要求を満たしていないという批判にこたえマネジメント・アプローチを導入した。しかし、マネジメント・アプローチによるセグメント情報は、企業の内部情報に基づく情報であるため、経営者の恣意性が混入する可能性があり、企業間の比較や、同一企業の年度間の比較が困難になるという比較可能性の問題や、企業側にとっては、競争相手や顧客との関係における事業活動上の障害や経営管理体制を前提としているため、企業の組織形態によっては実務的な負担の増大を招くという問題を抱えている。特に比較可能性は、会計情報の有用性を支える会計情報の質的特性の一つであるが、新会計基準では、会計情報利用者の意思決定との関連性が、会計情報の信頼性と共に会計情報の有用性を直接判定する基準であり、その下位概念であり最低限の基礎的条件である比較可能性よりも優先されるとされている。そして、関連情報の開示により、比較可能性の問題は対処できるとしている。ASBJ が2006 年12 月に公表した討議資料「財務会計の概念フレームワーク」でも、形式的・画一的な比較可能性を求めているのではなく、意思決定に有用な会計情報を提供するために、企業実態に応じた企業の裁量的判断の必要性を認め、信頼性の構成要素である表現の忠実性との関連性について明確に説明されていない。2011 年3 月期よりマネジメント・アプローチによるセグメント情報が開示されるが、投資家にとってより役立つ会計情報が開示されることになるのか、会計情報の質的特性に関するさらなる考察とともに実証分析を含めて今後の課題としたい。
著者
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