ウスバシロチョウにおける卵胞の発達段階
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概要
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ウスバシロチヨウParnassius glacialisの卵巣の構造と卵形成の過程を光学顕微鏡で観察した.(卵巣)卵巣は結合組織と脂肪体でおおわれ,4つの交互栄養型卵巣小管から構成されている.各卵巣小管はおよそ9mmで,前端より端系(terminal filament),生殖巣(germarium),卵黄巣(vitellarium),卵管柄(pedicel)に分けられる.生殖巣は卵原細胞(oogonium),嚢胞胚(cystoblast),嚢脳細胞(cystocyte),前濾胞細胞(prefollicle cell)を有し,卵黄巣から卵管柄までの間に平均して25の卵胞(egg follicle)が存在し,それらは発達の段階順に一列に配列している.(卵形成)卵胞の発達過程は,嚢胞細胞,卵母細胞(oocyte),栄養細胞(nurse cell),濾胞細胞(follicle cell)の形態的特徴にもとづいて12のステージに分けられる.各ステージにおける卵胞の発達状態は次のようである.ステージ1;嚢胞胚の連続する3回の分裂により,8個の嚢胞細飽か形成され,それらは相互に細胞質の橋で連絡している.ステージ2;嚢脳細胞の1つが後方へ移動して卵母細胞になり,他の7つの嚢胞細胞は栄養細胞になる.卵母細胞-栄養細胞複合体(oocyte-nurse cell complex)は1列に配列し,それらは次第に濾胞細胞でおおわれる.ステージ3;栄養細胞核は急速に成長し,多数のクロマチン粒を含むアメーバ状となる.卵母細胞-栄養細胞複合体は濾胞細胞で完全に包まれ,隣接する複合体から分離される.間もなく,卵母細胞を包む濾胞細胞は円柱状となり,一層の濾胞上皮を形成する.卵母細胞と栄養細胞群との間に濾胞細胞が侵入し,卵胞は卵室(egg chamber)と栄養細胞室(nurse chamber)とに分けられる.ステージ4;卵母細胞は半球状となり,その体積は卵胞全体の1/3になる.栄養細胞から卵母細胞への栄養物質と細胞構成要素の流入が顕著になる.卵母細胞内での栄養物質の蓄積に伴い,卵母細胞核は側力へ押しやられ,仁は崩壊して多数の小片になる.ステージ5;卵母細胞は卵胞全体の1/2の大きさになる.卵胞全体を包む濾胞細胞間に狭い空隙が生じ,卵母細胞の表層域にタソパク性卵黄小球が形成される.ステージ6;卵母細胞は卵胞全体の3/4を占める.卵胞が回転し,その前-後軸は卵管軸に対して45度ほど傾く.卵母細胞の内部に於いてもタンパク性卵黄小球の形成が進む.ステージ7;卵胞はほぼ球形となり,卵母細胞は卵胞全体の6/7に達する.卵母細胞の側方を包む濾胞細胞は大きさを増して立方形になり,その後無糸分裂によって増殖する.ステージ8;直径0.8mmに達した卵母細胞は徐々に扁平楕円体へと変形し始める.栄養細胞群は細胞の前部で圧縮され,退化し始める.栄養細胞室と卵室との間に無糸分裂で増殖した濾胞細胞が侵入する.ステージ9;卵母細胞は0.9×1.1mmの大きさに達し,前-後軸は卵管軸と直交する.栄養細胞核が崩壊し,多数のクロマチン粒を形成する.卵室は濾胞細胞層によって栄養細胞室から完全に分離される.ステージ10;卵母細胞は1.0×1.3mmの大きさに達し,その後極部が扁平となる.濾胞細胞間の空隙が著しく拡大するが,細胞質は細い橋で連絡している.栄養細胞核から生じた大小のクロマチン粒は濾胞細胞に取り込まれる.卵母細胞の成長が終了し,卵黄膜が形成される.ステージ11;卵室は1.0×1.4mmの「まんじゅう」形となり,卵母細胞の表層構造が完成する.濾胞細胞から分泌される卵殻形成物質が卵黄膜上に蓄積し,卵殻の形成が進む.卵母細胞核が第一成熟分裂の中期の状態に入る.ステージ12;卵殻が完成し,0.8×1.4mmに達した卵母細胞は濾胞上皮から離脱し,側輪卵管内へ移行する.
- 日本鱗翅学会の論文
- 1989-09-20
著者
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