イエメン・アラブ共和国の蝶3種の染色体
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概要
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イエメン・アラブ共和国の蝶若干種の精子形成過程を調べて染色体を観察したので結果を要約する.これらの蝶は1980年にMr.T.B.LARSENによって採集され,それらの染色体の調査を依託されたものである.各産地の概略はLARSEN(1982b)の報告に記されている.なお,アラビア半島の蝶の染色体は,これまでオーマンの5種で調べられている(SAITOH,1982). 1. Papilio machaon rathjensi WARNECKE: Jabal Sabr産の1♂で第1分裂および第2分裂の染色体を観察した.n,30.アラビア半島のmachaonは3亜種(m. muetingi, m. syriacusおよびm. rathjensi)に分化し,それぞれは互に遠く隔った別地域に分布している(LARSEN,1981).これらのうちでは,muetingiの核型は全く未調査であるが,syriacusはBeirutの♂で染色体が調べられ,n,31と報告されている(LARSEN,1975).アラビア半島のsyriacusはサウジアラビアのHofuf一帯にのみ知られるがその染色体は未調査であり,分布域が遠く隔っている両個体群の核学的関係を知る必要がある.rathjensiは上記の通りn,30であって,報告されているsyriacusとは異った核型をもっている.2. Ypthima asterope asterope KLUG: DalilおよびWadi Dur産のそれぞれ1♂で第1分裂の染色体を検した.共にn,14の染色体がみられ,両者は核型にちがいはないようにみえる.Fig.2はDalil産♂の中期像である.Lebanon産♂もn,14であるが(LARSEN,1975),染色体数以外の核型の特徴は報告されていない.また,Y.a.asteropeおよびネパールのY. lisandra awata (n, 16, MAEKI & AE, 1970)の染色体数は同属の既知染色体数(n, 24, 27, 29, 37)に比べて格段に少ない.この属は多数の酷似種を含むが多様な核型をもつようであるから,今後の比較調査が期待される. 3. Gegenes pumilio HOFFMANSEGG: Dalil産の1♂で第1分裂の染色体を観察した.n, 41.マーカー染色体(最大染色体)が一つ容易に識別される.Gegenes pumilioと呼ばれているセセリチョウには,現在少なくともn,24の個体群と,n,41の個体群が含まれることが知られている.前者はLESSE(1960,1967)が調べたNiceおよびAlgerなどの西地中海沿岸の個体群であり,後者はLESSE(1960)およびLARSEN(1982a)が調べているGulekおよびBeirutなどの東地中海沿岸の個体群である.Dalil産♂の染色体数は,まさに後者と同じである.n,24と41の個体は,形態および交尾器に,両者を区別できるような特徴はみられない(LARSEN,1982a).またこの種では染色体数以外の核型の特徴の記載がこれまで全くなされていないのみならず,染色体像も公表されていない.さらに各地の材料を,染色体と生活史の両面から精査する必要がある.なお,地中海沿岸には同属の(G.nostrodamusも分布しているが,この種はn,15であってその核型はpumilioと全くことなっている(SAITOH,1979).
- 日本鱗翅学会の論文
- 1984-05-20
著者
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斎藤 和夫
Department Of Bioscience And Biotechnology Faculty Of Engineering Aomori University
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斎藤 和夫
青森大学工学部生物工学科
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斎藤 和夫
Department Of Biology Hirosaki University
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