ニューギニア島高地で同所共存するカザリシロチョウ
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概要
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ニューギニア島高地において同所共存するカザリシロチョウの種類が複数の地区から報告され,幾つかの知見を踏まえて,ニューギニア島高地に生息するカザリシロチョウは少なくとも5種以上の同所共存が通常の生態であることが見いだされた.一方,東南アジアにおいては,高地でも低地でも単独か2-3種の共存が通常である(一部に例外的な地域はあるが限られる).さらに,ニューギニア島高地と東南アジアの島嶼(>100,000km^2)に生息するカザリシロチョウの総種数と固有種種数との比較(Table 1)から,ニューギニア島に生息するカザリシロチョウが特に著しく多種化したことが示された.それらの種分化機構については一般的に地理的な隔離によると考えられている.我々はその種分化機構について,Baliem Valleyを挟む2地域の同種あるいは姉妹種の形態学的比較(Figs 7-12)から地理的な隔離が遺伝子の交流を妨げ,種分化を引き起こしていることを複数種の具体的事例によって明らかにした.しかしながら,このような分断された地形(Fig.13)はニューギニア島高地のみならず東南アジアの山岳地帯にも見られるが,それらからは複数種のこのような同種間の著しい斑紋の差異は知られていない.それゆえ,地理的な隔離(生物地理学的分断)だけでこのような著しい多種化が引き起こされ,維持されているとは考え難い.ニューギニア島高地における幼生期の生態は殆ど知られていないが,幾つかの種において幼虫がヤドリギを食すことが確認されており,ニューギニア島高地においても一般にそのホストはヤドリギと推察される.ヤドリギがニューギニア島において特に著しく多種化したという報告はなく,ホストの特別な種分化に付随した特殊な現象とも考え難い.ニューギニア島に生息するカザリシロチョウにほぼ固有の現象である著しい種分化とそれらの同所共存が何故起こったのか,どのような機構でそれが維持されているのか,それはその地にたまたま偶然起こったことなのか,それともその地ではそうならねばならない必然的な理由があるのか,この多種化およびその共存機構へのさらに深い探求は,生物多様性の成因解明にもつながる興味深くかつ重要なテーマであると考えられた.
- 2001-06-30
著者
-
森中 定治
Aichi Study Center, The University of the Air
-
GINARSA Ida
Yeh Sumbul
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宮田 正
Graduate School of Bioagricultural Sciences, Nagoya University
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田中 健治
Aichi Study Center, The University of the Air
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森中 定治
放送大学
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宮田 正
Graduate School Of Bioagricultural Sciences Nagoya University
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森中 定治
Biological Laboratory The University Of The Air
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森中 定治
Aichi Study Center The University Of The Air
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森中 定治
放送大学愛知学習センター
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田中 健治
Aichi Study Center The University Of The Air
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森中 定治
放送大学教養部
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Morinaka Sadaharu
Faculty Of Liberal Arts The University Of The Air
-
Morinaka Sadaharu
Faculty Of Liberal Arts University Of The Air
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