河口・汽水域生態系における底生微細藻の果たす役割(シンポジウム:浅海域生態系における底生微細藻の役割)
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概要
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宮城県名取川で行われた研究事例をもとに,河口・汽水域生態系における底生微細藻類の果たす役割について考察した.本水域は二枚貝のヤマトシジミやアサリの漁場として,また稚魚の成育場としても重要な水域である.生息している生物群集の胃内容物検索と安定同位体比の解析により,この水域の食物連鎖は,大まかに二つの経路に分けられた.浮魚類に繋がる浮遊系(植物プランクトンを起点)と底生魚類に繋がる底生系(底生微細藻を起点とする)である.採集された魚類の多くが底生魚であることから考えると,河口・汽水域生態系における基礎生産者しての役割は,底生微細藻のほうが植物プランクトンよりやや大きいと推測された.底生微細藻には多様な種類があり,様々な生活様式をもつ種類が同所的に成育できる機構があると思われる.そのためサイズや増殖形態における多様性が高くなると考えられる.生産力との関係について考察するために行った現場実験によると,名取川河口域における鍵種のひとつである二枚貝イソシジミの成長速度は夏季から秋季にかけて著しく高いことが分かった.同じ場所で微細藻類の現場培養実験を行った結果では,イソシジミの主要食物生物である底生珪藻の生産速度は夏季から秋季にかけて最大値を示した.これらの事実は,底生微細藻が夏季のイソシジミの高い生産力を支える中核的食資源としての役割を担っていることを示唆している.
- 2009-08-31
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