数理物理の新展開 : ランダム行列とSLE(第54回物性若手夏の学校(2009年度),講義ノート)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
前半はランダム行列と非衝突拡散過程について(第1節-3節),後半はSLEと共形場理論について(第4節-6節)解説する.数理物理の分野でいま盛んに研究されているこの2つのトピックスは,一見すると無関係に思えるが,Bessel過程とよばれる確率過程を通じて深く関連しているという不思議さを伝えたい.ランダム行列とは成分が乱数で与えられる行列のことである.ただし行列に対称性を課す.そうするとすべての成分が独立という訳にはいかなくなるが,それでもなるべくランダムに各成分を生成させることにする.例えば,サイズNのランダムなHermite行列はN^2個の独立な実乱数を用いて生成できる.Hermite行列なのでユニタリー行列で対角化できてN個の実固有値が定まる.行列成分がランダムなのでN個の実固有値もランダムだが,それらはもはや独立ではない.N個の実固有値を直線上のN粒子の位置と見なそう.すると粒子間に(距離に反比例する)斥力が働く1次元N粒子系が得られる.ランダム行列理論は「独立な乱数から強く相互作用する系を生み出す理論」である.複素平面の実軸の上側を上半平面という.原点を出発点とする1本の(有限の長さの)曲線を上半平面に描く.上半平面から,いま描いた曲線を取り除く.曲線がループを持つときにはそのループで囲まれた領域も一緒に取り除くことにする.残りは当然,上半平面の「部分」になる訳だが,その「部分」を元の上半平面全体に写す(つまり元に戻す)共形変換(等角写像)が必ず存在する.これをRiemannの写像定理という.この変換の逆を考えよう.すると,元々は何も無かった上半平面に曲線を生み出すことができる.この原理をBrown運動の理論と組み合わせたのが,2000年に発表されたSchramm-Loewner Evolution(SLE)である.フラクタル物理学や相転移・臨界現象の統計物理学で重要な役割を果たす様々なランダムな連続曲線をSLEで自在に生成できることが,この10年の間に分かってきた.(2006年にWernerはSLEと共形場理論の研究で数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞を受賞した.)
- 2010-03-05
著者
関連論文
- 数理物理の新展開 : ランダム行列とSLE(第54回物性若手夏の学校(2009年度),講義ノート)
- ラプラス変換と揺らぎ (特集 物理数学の効用--物理の具体例から入る数学抽象世界)
- 問題例で深める物理(2)古典力学と量子力学の対応
- 問題例で深める物理(7)フーリエ級数とフーリエ変換
- 非衝突過程・行列値過程・行列式過程
- ランダム行列とその周辺 (特集 現代数学はいかに使われているか(確率編))
- 問題例で深める物理(5)マクスウェル方程式の微分形と積分形
- 問題例で深める物理(3)二項分布からカノニカル分布へ
- 臨界現象・フラクタル研究の新世紀 : SLEの発見(話題)
- 非衝突過程・行列値過程・行列式過程
- 20aWA-10 回転行列のウィグナー公式と多成分量子ウォーク(確率過程,領域11,統計力学,物性基礎論,応用数学,力学,流体物理)
- 21pYO-2 ワイル粒子の軌道状態と量子ウォークの極限分布(確立過程・確立モデル,領域11(統計力学,物性基礎論,応用数学,力学,流体物理))
- 21pYO-1 量子ウォークとワイル方程式(確立過程・確立モデル,領域11(統計力学,物性基礎論,応用数学,力学,流体物理))
- Nonintersecting Paths, Noncolliding Diffusion Processes and Representation Theory (Combinatorial Methods in Representation Theory and their Applications)
- 27aWM-9 非衝突拡散粒子系とランダム行列理論(確率過程・確率モデル)(領域11)
- 30pWJ-1 無限粒子 vicious walk とエアリー過程
- 23aZA-4 non-attractiveなDomany-Kinzelモデルの完全収束定理
- 23aZA-3 Domany-Kinzelモデルの局所生存確率と大域生存確率
- 23aZA-1 Domany-KinzelモデルへのArrowsmith-Essamの定理の拡張
- 13p-G-3 1次元Pair Annihilation Modelにおける相転移の存在証明
- 30p-F-8 Diffusive Contact Processの拡散率無限大における漸近挙動
- 拡散を伴ったコンタクト・プロセスについて(「非平衡系の統計物理」研究会(その2),研究会報告)
- 28a-ZA-2 拡張された1次元コンタクト・プロセスの臨界値に対する評価
- 28a-ZA-1 Diffusive Contact Processの臨界点の解析
- 触媒表面の数理モデル(基研短期研究会「格子理論の進展-素粒子から生物まで-」,研究会報告)
- 30a-ZL-13 Multiparticle Creation Processについて
- 30a-ZL-12 finite range最近接粒子系のあるクラスの臨界値に対する評価
- 非可逆な化学反応モデルにおける拡散の効果について(パターン形成、運動と統計,研究会報告)
- 28p-T-11 一様最近接粒子系のあるクラスのオーダーパラメータに対する評価
- 問題例で深める物理(12)物理現象の次元性
- 問題例で深める物理(11)流体力学からカオスへ
- 問題例で深める物理(10)多体系における集団運動と個別運動
- 問題例で深める物理(9)1次元イジング模型と転送行列
- 問題例で深める物理(8)変分原理
- 問題例で深める物理(6)磁場と電場の相対性
- 問題例で深める物理(4)二体問題
- 問題例で深める物理(1)物理学の縦糸と横糸
- 28p-T-10 触媒表面の数理モデルについて
- 25p-F-5 非可逆な化学反応モデルにおける拡散の効果について
- Schramm-Loewner Evolution入門 (非可換解析とミクロ・マクロ双対性)
- 経済物理の偶然と必然 (特集 偶然から必然へ--小さな原因と大きな結果)
- Non-Colliding System of Brownian Particles as Pfaffian Process (Perspective and Application of Integrable Systems)
- 非衝突拡散粒子系とランダム行列理論(基研研究会 確率モデルの統計力学,研究会報告)
- 4p-PS-17 Contact ProcessのSurvival Probabilityに対するMarkov Extensionを用いた評価
- 4p-PS-16 Harris-FKG不等式を用いたコンタクト・プロセスのオーダーパラメータの評価
- 14.コンタクト・プロセスにおける感染領域の定常分布ついて(「パターン形成、運動及びその統計」研究会,研究会報告)
- 31a-PS-22 コンタクト・プロセスの相移点に対する上限値及び下限値について II
- 31a-PS-21 コンタクト・プロセスの相移点に対する上限値及び下限値について I
- 6p-R-7 3-state Stochastic Cellular Automataの定常分布の分類
- 5a-R-9 自触媒作用素における相転移現象の研究
- 5p-D5-10 Contact Processの臨界現象
- 非衝突乱歩系・シューア関数・ランダム行列
- 砂山の可換モデル
- 詳細釣合を満たさない定常分布 : コンタクト・プロセスを例にして